熱いシャワーがさらさらと肌を流れるままに、私はぎゅっと目を閉じた。 知りたいと言ってから、私はいったい何を知れたんだろう。ラルースも、トオイくんも、実は何ひとつ知れていないのかもしれない。 そう思うと左側の胸の奥が、じわりと熱くなって痛い。くすぶった気持ちを長時間抱えていたから、きっと低温やけどしてしまっんだ。 私とヒトカゲ、いつもの家族、それからひとりのお客様と囲んだ食卓は、いつもより穏やかだった。ロンド博士はトオイくんよりもてきぱきしているようにみえたけど、つくりだすその場の雰囲気はおんなじ、繊細でやさしくて、安心してしまうようなもので。 それなのにロンド博士の色彩を見ていると、思い出されるのは小さなトオイくんのことだった。ポケモン恐怖症だった頃の、私が想像したにすぎないトオイくん。私の知らないトオイくん。 知りたいと思う。だけど傷つけたくない。ばかみたいだなって思うけど、それが私の本音なのもわかってる。 かちりとシャワーを止めて、湯気でもわもわとかすむ視界の先、曇り切った鏡の前からピンク色のボディーソープを選びだした時だった。 「なまえ、お前風呂長いぞ!早くあがれよ」 急に声がかかってびっくりした私が可愛くない悲鳴を上げたら、お兄ちゃんは自分のせいなのに大爆笑をはじめた。 「まだ全然かかるよ!」 「ったく、お前長いんだから先にオレに入らせろっての…」 「仕方ないでしょ女なんだから」 ちょっとむっとしながらキツく言い返したら、刷りガラスの扉で隔てられた脱衣所から、ぶつぶつと文句を言いながらお兄ちゃんの色彩が出ていく。さっきまでの大人な対応がうそみたいだ。 入れ代わりに入ってきたらしいオレンジの色彩が、扉の向こうでゆらりと揺れた。 「……ヒトカゲ、いるの?」 「かげっ」 外にいるのにヒトカゲの声は風呂場によく響いた。水が嫌いなヒトカゲが、わざわざ脱衣所までくるのも珍しい。 「どうしたの?」 泡立てたボディーソープで身体を洗いながら尋ねたら、こんこんと控えめにノックされる。 「…あけてほしいの?」 「かげかげっ」 「でも水かかっちゃうよ…?」 首をかしげながら扉をあけたら、ヒトカゲはあの赤い傘をかかえてにこにことそこに立っていた。 身体中泡あわの私にも、すぐに理解できたヒトカゲの無邪気な目的に、なんだかため息も憂うつも吹き飛んでしまった。 「…やっちゃおっか」 「かげっ!」 満面の笑みと共にしっぽの炎が火力を増したのを見たら、笑わずにいられない。シャワーで傘の試し差しなんてやったことないけど、今日は雨なんて待ってられない気分だからちょうどいい。 110221
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