novel | ナノ

どうやら私とヒトカゲはそっくり同じ顔をしていたみたいで、トオイくんはくすくすと笑いだしてしまった。

あんまりにも長く笑うから、だんだん恥ずかしくなってきてほおが熱くなる。なんだかこのパターンって多い気がする。


「…そんなにおかしかった…?」
「そうだね…、ごめん」


謝りながらも噛み殺した笑いでことばが跳ねた。トオイくんのツボはやっぱりミステリアスで、ヒトカゲは相変わらずきょとんとトオイくんを見ている。

トオイくんは私を見て、もう一度ごめんねと謝ってくれた。ちょっと熱いほおをごまかそうと目を逸らしたけど、トオイくんの声はよく聞こえた。


「…僕がプラスルとマイナンに会ったのは、僕がまだポケモン恐怖症だったときなんだ」


ぼんやりとガラス製の装置を見ていた私は、そのことばにびっくりして視線を戻した。

トオイくんは私と同じように装置を見ていて、だけどその横顔は今まで見たことのない、不思議な表情をうかべていた。真剣と言うには穏やかで、真面目と言うには無表情に近い。

ヒトカゲも、ポロックを運ぶ手がとまっている。

空気が重くなってしまったことに気が付いたのか、まばたきをしたトオイくんはすこし目を見張ってヒトカゲを、そして首をめぐらせて私を見た。

ぱちりと正面からしっかり目が合うのが、なんだか久しぶりな気がしたのはどうしてだろう…まるで、私の知らない幼いトオイくんが、いまのトオイくんを通して私を見ているような錯覚。

まばたきをした一瞬に、それはいまのトオイくんに変わっていた……なんて、へんな表現。いまのトオイくんはいまのトオイくんに決まってるけど、なんだか心臓はどくどくと激しく鳴っていた。私って感化されやすいのかな…?

トオイくんは私の不安感を見抜いたのか、私がそんな顔してたのかもしれない。安心させるように口元でちょっとほほえんだ。


「なまえがそんな深刻に考えなくても大丈夫だよ、もう治ったし」
「そう……だよね、治ったんだもんね」
「うん。いまはだいすきだよ」


にっこり笑って、トオイくんはヒトカゲを撫でる。うれしそうに鳴いたヒトカゲは、完全にトオイくんに懐いているみたい。

またどきりと心臓が鳴ったけど、これはトオイくんが笑えばいつも起きるたぐいの痛みだった。

トオイくんがまた、大人みたいに笑うから起きただけで、さっきのとはちがうのがよくわかる。本当は私、これを知ってる。

素直に笑い合うヒトカゲとトオイくんを見てたら、なんだか素直になれない自分が悔しくなった。

110214
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