novel | ナノ

ぱちんとスイッチを押したらさっきまでの幻想的な空間は姿を消してしまって、代わりに無機質で事務的な、いかにもって感じの研究室が現れる。

私が支持されたとおりに電気をつけてくる間に、トオイくんはどこからかもうひとつ椅子を引っ張ってきていて、すこし早めのティータイムがはじまった。

ちゃんとお昼ご飯のぶんお腹空けといてねとヒトカゲに釘をさしたけど、聞こえなかったのか反応はなかった。


「すごい…」
「やっぱりこれって、つくるの難しいの?」
「うん、すごいよ。クッキー自体は簡単だけど、こんなにしっかりポケモンのかたちに焼き上げるのは難しいと思う…」
「そうなんだ…いつもあんまり考えずに食べてたよ」


いろんなポケモンをかたどったクッキーはまるで売りものみたいだった。

感心したようなトオイくんの声に、トオイくんの家で出迎えてくれたユウコさんがちらちらと脳裏をよぎる。ちょうど口元に運んでいた紅茶はオリジナルブレンドみたいで、甘くふんわりした香りが広がった。

甘いもの好きのヒトカゲが袖を引っ張るからすこしあげたら、案の定ストレートは苦かったみたいで涙目になっていた。


「…あ、そういえば、今日プラスルとマイナンはどうしたの?」
「かげっ?」


やっぱりもやもやする。だけど認めたくない私は気がつかないフリをして、話題変更を選んだ。

口直しにか、トオイくんが出してくれたポロックをたくさん口に放り込んでいたヒトカゲも、ふと顔を上げてトオイくんを見つめる。

私とヒトカゲ、四つの目を向けられてトオイくんは笑った。


「今朝からどこかに出かけてるみたいだよ。心配しなくても、たぶん夕方には帰ってくるから」


私もヒトカゲも、きょとんとして顔を見合わせた。トオイくんの言ってる意味がよくわからない。


「どこか…って?」
「正確にはわからないけど…たぶん、サウスシティの知り合いのところまでじゃないかな…」


ますます意味がわからなくて戸惑ったら、トオイくんは急に何かに気づいたらしい。


「あ、そうか!」
「え?」
「まだ言ってなかったね。プラスルとマイナンは正確には、僕のポケモンじゃないんだ」

110208
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