ようやく扉までたどり着き、入り口に張り出した軒の下にヒトカゲを下ろす。 すっかり自動ドアに慣れっこになったヒトカゲが扉に飛び付いていくのを視界の端にとらえながら、私は大きな水色の傘を畳んだ。ぐるりと見回してみるけど、強くなった雨のなかには人っ子ひとりいない。 「かーげ!」 「ん、なに、どうしたの?」 くいくい、と私のズボンの裾を引っ張ったヒトカゲが示す先、温室の扉の横に、カードの読み取り機みたいなものがあった。なんだか、嫌な予感…。 「…開かない、の?」 こくんとうなずくヒトカゲは、早く中に入りたがっている。とりあえず片手で傘とカバンと買い物袋、もう片手でカードを取り出しつつ、恐る恐る扉に近づいた。 もしかしなくてもここって、個人の所有建築なんじゃ…?だとしたら、これにカードを当てたら不法侵入しようとした曲者だって怒られるかもしれない。 リーダーの前でカード片手に立ち止まった私を、早く早くとヒトカゲがせっつく。 「…ヒトカゲ、ここは誰かの建物かもしれないんだけど…」 「…?」 「あなたがボールに入ってくれるなら、濡れずにこのままお家に帰れるよ?」 言葉の意味はわかってるだろうに、ヒトカゲはそれを拒絶するようにしっぽをゆらゆらと振った。好奇心旺盛さがあだになるのはこんなときだ。きっとヒトカゲは、試してみる前にあきらめることを許してはくれないだろう。 仕方ない、か…。嫌だなあと思いながら、恐る恐るカードを読み取り機に当ててみた。 果たして、……反応は、なかった。警備員さん…というよりラルースでは警備ブロックだけど、それが飛んでくるわけでも、音声で注意されるわけでもなかった。 ほっとする私と引き替えに、ヒトカゲは残念そうに読み取り機と扉とを見つめている。 「さ、ヒトカゲ帰ろう?」 私がヒトカゲにボールを差し出すのと、ちょうどその時私の背後に位置していた扉が開くのが、同時だった。 そして、私が人の気配を感じて振り返ったのと、向こうが声を発したのとがまた、同時だった。 「なまえ……なんでここにいるの?」 ぴょんっと鼓動が…心臓が変な風に跳ねた。びっくりしているというよりは不思議そうな表情をしたトオイくんに偶然会うのって、一体何回目だろう? 101220
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