novel | ナノ

しばらくトオイくんは何にも言わなかったし、私も何も言わなかった。結果的に訪れたのはまたしても沈黙だったけど、今度のは嫌な感じがしなかった。

心地よい沈黙、っていうのもあるみたい。カントーにいた頃は、こんなこと知らなかった。


「ぷら?」


トオイくんと並んでコンベアに乗っていたら、つんと服の端を引っ張られた。見ればプラスルが首をかしげて私を見上げている。

トオイくんに視線を向けてみたらトオイくんもわからないみたいで首を傾げるから、私はプラスルと視線を合わせるべくしゃがみこむ。


「ん、どうしたのプラスル?」
「ぷらぷら?」
「え?わ、ちょっと待ってプラスル、」
「ぷ、プラスル!」


プラスルはしきりに私の腰あたりをまさぐりはじめたのでぎょっとした。

あわてたようなトオイくんがプラスルを抱き上げてやめさせようとする。


「だめだよプラスル、何やってるんだ!」
「ぷら!」
「まいっ!」
「え、ちょっとマイナン!?」


傍でぽけっと私たちが格闘するのを見てたはずのマイナンが、プラスルがトオイくんにひっぺがされたとたんに代わりのように飛び付いてきた。

ぎょっとしてトオイくんが目を開いたその時、私はプラスルとマイナンの要求がわかった。


「わかった、ヒトカゲでしょう?ほら出ておいでヒトカゲ!」
「かげっ」
「ぷら!」
「ま〜いま〜い!」


あわててバッグからモンスターボールを投げたら、私にひっついていたマイナンも、トオイくんの手を抜け出したプラスルも、出てきたヒトカゲにうれしそうに飛び付いていった。


「……そういうことかぁ…」
「みたいだね…」


トオイくんはぐったりとしゃがみこみながらヒトカゲたちを眺め、それからしゃがみこんだままの私を見て、照れたように笑った。


「きみのヒトカゲは、人気者だね」
「そうかなぁ…トオイくんのプラスルたちが、人一倍懐っこいんだと思うよ?」


首をかしげながら言ったら、トオイくんは何がおかしいのか笑いだした。笑いながらも立ち上がり、自然に差し出される手に思わず手を乗せてしまう。

引っ張り上げられる感覚は懐かしくて、触れた手の今まで気づかなかった大きさに、またどきりと心臓が跳ねた。

トオイくんの笑顔が向けられることが、やけに恥ずかしい。


「な…なに?」
「ううん、なんでもないよ」


トオイくんは首を振りながらも、やっぱり笑いが噛み殺せないらしくてまだ笑っていた。

トオイくんのツボって、ミステリアスかもしれない…。

101209
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