novel | ナノ

「ちょ、っ……なまえ、だめだよ!」
「だめじゃないよ、お礼だから」
「お礼もらうようなこと、僕してないからだめだよ」
「丸3日も、機械オンチ人間のウォーキング練習に付きっきり」
「……」
「十分、お礼もらうようなことだと思うよ」


むすっとしたように黙り込んだトオイくんを確認してから、私は伝票を持って立ち上がる。トオイくんももう何も言わずに、黙ってついてきてくれた。

ふたりと二匹ぶんのお昼代を払って、大きなショッピングモールに入っているお洒落なレストランを出る。

ここはなかなかお料理も雰囲気も気に入ったから、覚えておこうと思って振り返ったら、思いがけず真後ろにトオイくんは立っていた。


「うわっ、び、びっくりした!」
「ぷらっ」
「あ…、ごめん」


目の前にプラスルの顔が広がったから思わず跳び退いたら、プラスルはくすくす笑った。トオイくんはまばたいたあと、プラスルと同じように笑う。


「…なんで笑うの」
「だって…なまえって面白いから」
「…ケンカ売ってるの?」
「ちがうよ、誉めてるんだ。本当に、見てて飽きないね」


トオイくんは私を観察してるのかな、とむっとしてそれを聞いていたら、何を思ったかトオイくんは片手で私の頭をそっと撫でてきた。


「なまえってポケモンみたい」
「………」


予想は裏切られなかった。

101203
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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