「ヒトミさん、セキュリティ保護お願いできますか?」 「今度は何、どうしたの」 「新しい入居者のデータを開きたいんです」 トオイくんがやってきたのは、すぐ近くの平たい建物だった。まさかまたあのベルトコンベアに乗るんじゃないかとびくびくしてた私はほっとした。 「……別にいいけど、…それ、いいの?」 「父さんに許可はもらってます」 「そう。じゃあ、はい。これ使って」 「ありがとう!」 どうやらここは街の図書館みたいだ。またしてもハイテク都市の名に恥じないハイテクっぷりで、図書館って言ってもほとんどは電子書籍らしい。 「ぷら?」 「パソコン借りたから、あっちで見よう」 「うん……ねえここは、図書館?」 「そうだよ」 トオイくんはカウンターにいたおねーさんと親しげに一通り喋った後、きょろきょろしている私に声をかけて歩きだす。 いつの間にか肩にいたプラスルを無意識に撫でながらその背中に尋ねたら、マイナンの乗ったその頭がこくんと上下する。 「ラルースライブラリ。全部電子だから規模がちいさく見られがちだけど、一応、ここら一体ではいちばん蔵書数が多いんだ」 ゆったりと話すトオイくんは、何かを聞くと、こんな風にガイドさんみたいなことをさらりと話してくれる。 自習スペースらしき場所はがらんとしていて、その机のうちのひとつで、トオイくんはパソコンを起動させた。カチャカチャと響くタイピングは手慣れたもので、持ってきたカードを読み込ませたりしているのを、私はじっと見ていた。 手伝いたかったけど、私がパソコンに触ったりしたら逆に邪魔をするに決まってるから、おとなしく肩のプラスルと遊んでいた。 「ひらいた」 「本当?」 あわてて液晶を覗き込もうとしたら、トオイくんに個人情報だからと阻止された。トオイくんは見てるのに、…なんてさすがにだだっ子みたいだから言わないけど、でも少し思ってしまった。 「じゃあ検索をかけるけど…この街に入居したのはいつ?」 「……おと、とい」 「つい最近…もしかして、カントーの定期連絡船で?」 「……う、ん」 個人情報だから、と意地悪したくなるのをこらえて、代わりに膝に移動してきたプラスルのほっぺを指でふにふに押してみた。プラスルはくすぐったいらしくて、笑っている。 101201 |