「…怒ってんの?」 「……」 「悪かったって」 「本当にそう思ってるなら、どうして今まで黙ってたの?」 「だからそれはさっきから言ってるだろ。血筋なんだよ」 「だからそれがさっきから意味分からないの!」 「だ〜か〜ら、この歳になってようやく覚醒すんだよ!何度もそう言ってるだろ!?」 がみがみと言い合いをする私たちを、不思議そうに横目で見ながら通り過ぎていく人たち。 だから街の外れのベンチまで来たはずなのに人通りが多い。どうしてかなぁと考えてみたら、とんでもないことを思い出した。 そういえば今日は満十歳のこどもたちが旅立つ日だ! 昨日電話がかかってきたっていうのに、目の前で私をにらむ、むかつくくらいの美少年のせいですっかり忘れてた。 あわてて傍らのカバンを掴んで立ち上がれば、眼前の青髪もぱっと立ち上がった。その反射神経のよさは到底人間のものではあり得ない。 「どこ行くんだよ」 「従弟のとこ!今日旅に出るのよあの子!見送りに行かなきゃいけなかったのにあんたのせいで忘れてた!」 「オレのせいかよ」 全速力の私の傍らを走りながら、呼吸ひとつ荒げないところもやっぱり人間じゃない。 姿はどこからどう見ても、人間なのに。人型になるポケモンはたまに生息しているとは聞いたことあるけど、まさか長年一緒にいた自分のポケモンがそうだとは思わなかった。 だって私のシャワーズは、ごくふつうのシャワーズだったから。 ***** 「ま、間に、合った…」 「なまえさんっ!!」 研究所の前でぜいぜいと息継ぎをしていた私の耳に、懐かしい声が届く。子ども特有の、すこし甲高い声。続いて駆けてくる軽やかな足音も。 「やっぱり来てくれたんですね!」 ぴょんっ、という効果音が似合いそうな勢いで飛び付いてきた従弟は、ぎゅ、と私にしがみつく。私も呼吸を整えながら小さい従弟に腕を回した。 「あまりに遅いので、来てくれないのかと思いました」 黄緑の髪をした片えくぼの従弟は、そう言ってにっこりと私を見上げた。小さい頃からかわらない笑顔に、私も笑顔になる。 「ごめんね、ちょっとごたごたしてて…」 「おいイトコ、てめーなまえのどこに顔埋めてやがる」 ついさっきまで黙ってたシャワーズが口を開いた。従弟は初めて気づいたようにそちらを見る。 ちょっとあんた子どもに何言ってんの、背が低いんだから仕方ないでしょう、と私はシャワーズをにらむけど、びっくりしたことに、従弟は目を輝かせた。 「もしかしてきみ、なまえさんのシャワーズ?」 私はびっくりして声も出なかったけど、シャワーズは相変わらずむすっとしたままつかつかと近寄ってきて、抱き合ったままの私と従弟をひっぺがす。 「おいなまえ、もういいだろ。帰るぞ」 「でもシャワーズ、」 「シャワーズ、なまえさんは僕の見送りに来てくれたんだよ。僕は御覧のとおりまだ出発してない。だからなまえさんはまだ帰れないよ」 驚きもせず、笑顔のままそう言ってまたすりついてくる黄緑を私は撫でる。本当によくできた10歳児だ。 「てめ、ガキのくせに」 「シャワーズ、あんたのほうがよっぽど子どもだよ。10歳児相手に何ムキになってるの。見たところ、あなたは私と同い年でしょ!」「……なまえがそう言うならわかった」 意外と聞き分けは良いんだ、と拍子抜けした気分でいたら、なんだか、叱ったはずのシャワーズはちょっと得意気で、従弟の方が憮然とした面持ちになっていてびっくりした。 「どうしたの?」 「…なまえさん」 「ん?」 「いつか、僕が強くなったら、僕とポケモン勝負をしてくれますか」 「もちろん」 「そしてもし、僕が勝ったら」 「うん」 ぎゅ、と一層強く抱きついたかわいい従弟は、私のむ、胸(シャワーズが変なこと言うから気にしちゃうじゃんか!)にぎゅっと顔を押しつけたまま何か言った。…んだけど、くぐもっていて聞こえなかった。 「え、何て?」 「…てください」 「えっ、?」 申し訳なく思いながらも再度聞き返したら、急にぱっ、と離れた従弟の顔は、こっちがびっくりするくらい真っ赤で。 「だっ、大丈夫!?もしかして熱中症…」 「大丈夫です。子ども扱いしないでください」 「……えぇ?」 なんだかショックを受けた。もしかして私、お節介だったかな……、と私が思う間もなく、黄緑の髪をした10歳の男の子は、言い放った。 「僕が勝ったら、そのときは、ちゃんと僕を男として見てください!」 失礼しましたっ、と言って、唖然としてた私の返事も聞かず、従弟は走り去っていった。 「……なまえの返事がないから、不成立、だな」 シャワーズがふん、と高慢そうに鼻をならした。 ルートをはずす (……シャワーズ、今の、何?)(そんなことだろうと思ったよ。可愛そうになぁ、あいつも、オレも) ぐあぁ、オリキャラ出張りましたすみません(><) そして懲りずにまた出てくるやもしれないキャラでした…← 20100825 |