夏休み企画より抜粋 なまえさんは昔からマイペースだ。兄が言う以前からわかっていた。兄と波長が合うような人だから、普通じゃないのもわかっていたし。 だけどびっくりしたなんてものじゃなかった。いつも三人で遊んでいたのに、ふたりともに裏切られたような気がした。実際に血を裏切ったのはふたりの方なのに、劣等感を抱いたのは確実に僕の方だった。 「あーレギュ発見!」 「……ああ、あなたですか」 「何よー。レギュ、なんかさ最近冷たいよね?」 「……気のせいじゃありませんか」 「そーかなぁ。まぁいいけど。ところで、シリウス見なかった?あいつまた私の教科書 借りたまま返さないの!」 なまえさんは憤慨したように語気を強めた。知らないんだな。まぁ無理もないか。兄はあなたに構ってほしいだけなんです、なんて、僕は絶対に言ってやらない。兄が昔からなまえさんを好きなのは知っていた。わかりやすい人だ、兄は。 そして兄はたぶん、僕がなまえさんを好きなことは知らない。…そう、僕も、ではなく僕が。なまえさんへの気持ちに気付いたのは僕が先なんだ。鈍い人だから、兄は。 「…大変ですね」 「そうなの!レギュの方がよっぽど大人ね」 「……僕の教科書、貸しましょうか?」 大人だと、なまえさんに誉められたことが何だかやけに嬉しい。僕はこの年の差を埋めて、さらに越さなきゃならないからだ。 「でもレギュはひとつ下…」 「持ってますよ、四年生の教科書くらい」 あなたに追い付きたくて。とは、まだ言えなくて、それでもなまえさんがびっくりしたあとに嬉しそうに笑うのが見れただけでも、今日は十分かもしれない。 とにかくも、僕の気持ちがなまえさんの重荷にならない程度に伝わればいい。冷たいとか思われなければそれでいい。今は。 「じゃあ、借りていくね。明日レポート書き上げたら、返すから…」 「いいですよ、捨ててしまっても」 「そんなことするはずないでしょ」 じゃあね、と手をひらりと振ってかけていく後ろ姿に、僕は仄暗いのを自覚しながらも問い掛ける。 それなら、もし、僕がこのどろりとした感情をあなたに顕にしてぶつけても、あなたは受け入れてくれるんですか? いつまで経っても、どんなに背伸びをしてみても、しょせんは弟としか見られていない気がして、また僕の感情は荒れるばかりだ。 Thanks;揺らぎ |