novel | ナノ

夏休み企画より抜粋

つかめないやつだとは思ってた。昔から。

だけどそれぞれ別々の場所で少し大人に近づいて、いざ会ってみれば、相変わらずつかめないことだけは、ちっとも変わってなかった。

追い詰められた窓辺から見えるグラウンドでサッカー部が練習をしているのが見えた。

「シリウス」
「んー?」
「…装ってないんじゃなかったの」
「そうだよ」
「…じゃあなんで、」

みんなの前で可愛い子ぶるの、と言うはずだった言葉が、彼の突然の意地悪い笑みによって出てこなくなった。

「お前さ、意味、分かってないだろ」
「……え」
「オレが言ってるのは、ピンポイントの話だよ」
「ピンポイント…?」

なんだか雲行きがよくないことだけは、なんとなく理解できた。それは、またじりじりとこちらに寄ってくるシリウスにも、その彼が浮かべている笑みにも感じられる「何か」を、私の本能が敏感に察知してるから、みたいだ。

まずい。これ以上は、下がれない。

「そう、ピンポイント。全般の話じゃねーんだよ、分かるか?」

まぁ分かんないだろうな、と笑いながらさらに近づいてくるシリウスは昔の彼そっくりで、私は彼がひどく嫌いだったのを思い出す。

突然、私の中を衝撃が走ったのはその時だった。答えをだしたら、何かが崩れてしまいそうな考えが浮かんだから。

何で私は、その嫌いだった男を必死で取り戻そうとしてるの…?

「じゃあ頭の弱い可哀相ななまえに、昔の馴染みでもうひとつだけ、すげー簡単なヒントをやるよ」
「……い、いらない…」
「まぁそう言うなって。やるって言われてるもんはもらっといたほうがいいぜ」

いやだ、いらない、と口を挟む暇もなかった。…ちがう。そんな間さえ与えられなかった。近づいて、うっすらとぬくもりを感じたときには離れていたそれが、言葉をつむぐ。

「……これが意味すること、…分かるよな?」

返事、待ってるから。

くるり、ときびすを返して去っていくシリウスを呆然と見送って、私は泣きたいような気持ちになる。

だって触れたぬくもりが、間近で見た彼の瞳が、怖かった、出したくなかった答えを明らかに指し示してしまったから。

Thanks;揺らぎ
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