novel | ナノ

夏休み企画より抜粋




スタイル抜群、それに負けないほど完璧な甘いマスク。

編入してきたときから今でも、初級生女子から最高学年の女子まで、とにかく女の子は彼が通りかかっただけでキヤーキャー大騒ぎ。逆に男子は大ブーイング…だと思ってたのに。


「なんで校内全生徒、おまけにすべての先生からもウケがいいんだ…!」


卑怯だ!調べても調べても、出てくるのは昔のやつからかけ離れたものばかり。

非の打ち所のない外見に、厚い人望。天は二物を与えずなんて嘘ばっかり!やつはすべてを持ってるじゃないかっ!


「その通りだよなまえ」
「出たな諸悪の根源!」
「諸悪の根源って…あのなぁ。お前が勝手に闘志燃やしてるだけだろ」


放課後の誰もいない教室に突然現れたシリウスは、やれやれと呆れ返りながら私のホームクラスに踏み入ってきた。

正論すぎて反論できず、私はくちびるを噛みながら、大股で近づいてくるやつから距離を置くために後退る。でもそんなのたかが知れてた。


「なあなまえ」
「何よ」
「……もう、終わりにしないか?」


窓際に追い詰められた私の前で足を止めたシリウスが発した意味不明な言葉に、私が顔を上げたのが間違いだった。


「止めないとは言ったけど、……もう、限界なんだ」


夕日の差し込む先で、色素の薄い瞳から目が反らせない。まるで蛇ににらまれたなんとか……回らない思考の先で、くす、とシリウスは笑った。勝ち誇ったような笑み。

……あぁ。もしかして、と思った。


「…意味が分からない、って顔してんな」
「そのままだからね」
「じゃあヒントをやろうか?」
「それはどうも」
「……本当はさ、オレにも手に入らないものがあるんだよ」
「……それが、あんたの弱点なの?」
「まぁ、そうなるな」
「…それが手に入れば、あんたは昔のあんたに戻るの?」
「それは違うな」


シリウスは視線を逸らさぬままに首を振り、そうしてたっぷり、思わせ振りな間をとってから、そっとささやいた。


「元々、そいつの前ではオレ、装ってないから」


ああ……やっぱり見つけた、昔のガキ大将。

Thanks;揺らぎ
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