novel | ナノ

夏休み企画より抜粋



ひとの手のぬくもりがこんなにあったかいなんて知らなかった。

どうして?って聞かれても分からない。分からないけど、ディーノが言うには、私は「りょうしん」の分からない子、らしい。

だから私の知ってるぬくもりは、ディーノのものだけなんだって。


「ディーノ」
「ん?」


私は大きな店内で、私の手を引きながら進んでいくディーノに呼び掛けた。

はるか上にあるディーノの金髪は、まわりじゅう黒いスーツやズボンやスカートに囲まれた私の目に、唯一の光みたいに映ってる。とてもきれい。


「どうして私には「りょうしん」がいないの?みんなには必ずいるの?」


最近の私の考えごとといえば、「りょうしん」のことばかりだった。数日前に「りょうしん」の絵を描こうとした私に、ディーノがオレはお前のりょうしんじゃないよ、と言ったから。


「ねぇ、りょうしんってなぁに?」
「なまえ…。この前話しただろ?」


困ったみたいに、悲しそうな笑顔を浮かべたディーノに、私まで悲しくなった。だってディーノはりょうしんだと思ってたのに。


「……なまえ。ごめん」
「どうして謝るの?」
「……」


こんなときに首をかしげれば、ディーノはまた悲しそうに笑って、私を抱き上げてくれるんだ。


「なまえがもう少し大きくなったら…ちゃんと、話すからな」
「うん。わかってる」


しっかり目線を合わせてくれるから、とても安心するの。蜜色のディーノの目がすきだから。

そのまま歩きだすディーノにしっかり掴まって、私たちは黒いスーツをかき分けた。


Thanks;揺らぎ
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