novel | ナノ

夏休み企画より抜粋

※閲覧注意


何度も、何度も名前を呼んで、すがりつくようなジョットを、私は何も言わず受け入れる。

その度に、ジョットから私に預けられるものは愛じゃない。

何かに対する痛いくらいの罪悪感と激情。強いて例えるなら、大切な、大切すぎて触れられなかった何かを、穢してしまった後悔のような。

その責任を埋めるように、彼は私にすがっているようだった。その『何か』が何なのかなんて、私は知らないのに。


「……すまない」
「謝らないでって、いつも言ってる」
「…そうだな」
「こういうときに謝る男は最低って言うでしょ」
「…あながち間違いではないかもしれないな」


彼は自嘲するように息を吐いた。それが尚、私の苛立ちを誘う。あなたは誰なの?なぜ私にすがるの?何に怯えてるの。

口に出しそうになって、私はくちびるを噛み締める。聞いちゃいけないのは、分かってた。


「…もう、行くの?」
「ああ」
「分かった…。いってらっしゃい、ジョット」
「…ありがとう、なまえ」


手早くマントを羽織って、ジョットは音もなく、まだ雨の降る、ぼんやりと白く霞んだ外へ出ていく。

水の香の残る部屋で私は、黒いマントの裾を、黙って見ていた。

聞いたらいけない。聞いたらきっと最後、彼は二度と尋ねに来ない。私は彼の大きすぎる悲しみを背負う、ただの女であって、愛人ですらないんだろうから。

彼には大切な『誰か』がいるんだろうから。

思うたびに手のひらからすり抜けていく思いに、私はまた、見ないふりをした。

Thanks;揺らぎ
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