novel | ナノ

夏休み企画より抜粋


「嫌…ですか?」
「…嫌」
「たった一日…ですよ?それに私が愛してるのはあなたです」
「…それでも、嫌」
「……そう、ですか…」


私が駄々をこねると、風はちょっと困ったように眉根を寄せて笑う。今は私がそっぽむいてるから見えないけど、口調から分かる。

この表情が、嫌。

朝になれば風は子供の身体に戻ってしまうのに、こうして時間を無駄にしてる私はもっと、嫌。

嫌なくせに私は、風のこの困ってるくせに笑ってくれる、そんな優しさが見たいんだ。見てしまったら、朝になってつらくなるから嫌なのも分かってるのに。


「…なまえ、」
「なんっ…」


軽く振り返ったとたんに降ってくるキスの嵐に、思わずぎゅっと目をつぶった。ごめんね、風。一番つらいのはあなたなのに、我が儘ばっかり言って困らせて、ごめんね。

私は素直じゃない。なれないから…くちびるから伝われば良いのに。


「ん……、風」
「すみません、不甲斐なくて…」


後ろからふわりと回される長い腕と優しさが、つらい。つらいけど、


「…最初から怒ってないよ」
「本当ですか?」
「うん」
「…良かった」


もう、嫌だとは思わなかった。

アルコバレーノであることを含めて、それが風なんだって分かってる。その関連の用事っていうのが、たとえ女の子の護衛で、一日中デートみたいに一緒に居なきゃいけないんだってことも、分かってる。


「…いってらっしゃい、風」

本当は、彼のための自己犠牲なんて、惜しくないんだ。

Thanks;揺らぎ

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テーマ「推しとの恋」
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