「あれ?」

教室の窓から外を覗くと、校門の所に誰か居るのが見えた。確か彼は一昨日会った工藤新一くん。

キョロキョロと辺りを見渡して誰かを探している。そして彼が校舎を見上げると私と目が合った。手を挙げてニッと笑っている。

どうやら尋ね人は私のようだ。

なぜ彼が私を探しに江古田高校まで来たのか皆目見当が付かない。

「なまえ?何見てんだ?」

快斗は横から顔を出して窓の外を見る。そして彼を見付けた。

「アイツ…」

「快斗知ってるの?」

「あぁ、アイツは…」

「みょうじさん!」

クラスの女子が慌ただしく教室に入ってきた。

「あの、呼んでるよ!」

「呼んでる?」

「うん!あの有名な工藤新一が!」

それを聞いたクラスメイト達はざわざわと騒ぎ始める。なぜ彼らがこんなに騒いでいるのか分からずに首を捻った。

「とにかく行ってきますね」

「あ、おいっ!なまえ!」

快斗が私を呼んでいたけど気にしないで外に向かった。靴に履き変えて正門に近づくと、新一くんが此方に歩み寄ってくるのが分かった。

「どうしたんですか?」

「いや、たいした用じゃねーんだけど気になる事があって」

「気になる事…?」

なんだろう…何故か身体がざわざわする。そういえば初めて会った時もこんな風になった。あぁ、私って学習能力ないかも。

「単刀直入に聞くけど…なんでそんな不自然な話し方してるんだ?」

「…不自然な話し方、ですか?」

「そう。普段はそんな話し方じゃねーだろ。そうだな…結構口が悪いとか」

どきっと心臓が跳ねた。誰にも見破られた事がないのに…なぜ…。

「…なんで分かったの?」

「簡単だよ。前にすれ違った事があるから」

「………はっ?」

そんな事でバレたの?

「先月、ちょっと用があってこっちに来た事があるんだよ。その時になまえがアイツと歩いてる時すれ違ったんだ」

新一は視線を私からずらして校舎の方を見た。そこにはじーっと私達を見ている快斗とその他大勢がいた。

「……そう」

「ふふん、記憶力がなくっちゃ探偵なんてやってられないしな」

「探偵?」

「そ。自分で言うのもなんだけど、今世間を騒がせている高校生探偵とはこの俺、工藤新一なんだぜ」

「……………」

そうだ、どこかで聞いた事があると思ったら新聞に良く載っている高校生探偵と同じ名前…いや、本人じゃないか。

「なまえなら特別にサイン…」

「いらない!」

探偵という事は私と快斗の敵。正反対の人物ではないか。

「え…?」

「あ、いや…別に新一くんが嫌いとかそんなんじゃなくて…」

なんだか落ち込んだように見える新一くんに、あまりにも強く言ってしまった自分が恥ずかしくなった。

「………ぷっ」

「え?」

急に吹き出した彼に私はどうすればいいのか分からない。そんな私を余所に、新一くんは可笑しそうにしていた。

「あ、あの…?」

「あぁ、ワリー。あのみょうじ財閥のご令嬢がまさかこんなに変な奴だったかと思うと可笑しくて」

変な奴って!

文句を言おうとして口を開いたが、私よりも早く彼が言葉を紡いだ。

「な、アドレス交換しねぇ?」

携帯をちらつかせる新一くんに、私は眉根を寄せた。

敵である彼とアドレス交換なんて…しかし変に断って後で探られても困る。

仕方ないので私は携帯を取り出し、アドレスを交換した。

「ん、じゃあ後でメールするからな。また!」

「…ばいばい」

そして彼は何事もなく去っていった。

なんだったんだ…。

どっと疲れた身体に鞭を打ち、私は教室へと戻っていった。



私達の敵
(嫌な予感がするんだよね…)




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