「あ、もうこんな時間!」
夕食後もゲームで遊んでいた子供達。ふと歩美ちゃんが時計を見て声をあげた。
小学生にとっては遅い時間。親御さん達も心配するだろう。
「そろそろ帰りましょう」
「えー!まだこのゲームやってねーよー」
「ダメだよ元太くん。あんまり長くいてもなまえお姉ちゃんに迷惑がかかっちゃうよ」
「私は大丈夫ですが、皆さんのご両親が心配されてしまいます。ゲームは逃げませんからまた遊びにいらっしゃつて下さい」
歩美ちゃんや私の説得に元太くんは渋々といった様子で頷いた。
「佐伯、送ってあげて」
「かしこまりました」
佐伯は子供達を促して部屋を出ていく。コナンくんもそれに続いて出ていこうとしていたので彼の首根っこを掴んで止める。
「コナンくんはまだ帰らなくていいんですよ。蘭ちゃんとお父様がお出掛けしてるみたいなので預かっていてほしいと言われましたから」
「えっ…」
もちろん嘘だ。蘭ちゃんには『きちんと送り届けるのでもう少し遊びたい』と言っておいた。
「で、でも…」
「大丈夫ですよ。少しお話しするだけですから」
にっこりと微笑みかける。すると彼の額にうっすらと汗が浮かんだ。
「さて、話してもらいましょうか」
目の前に置いてあるカップに手を伸ばす。カチャという陶器の音が響いた。
「ぼ、僕は話すことなんてないよ!」
「……工藤くんがいなくなってすぐ貴方が現れた。そして蘭ちゃんちに居候をし始めてから彼女のお父さんが“眠りの小五郎”として活躍している。タイミングが良すぎますよね」
「た、たまたまなんじゃないかな!」
カップを口まで運んで流し込む。アールグレイが口いっぱいに広がった。
「眠っているように事件を解決してしまう小五郎さん。本当に眠っているのではないですか?コナンくんのお知り合いに阿笠さんという発明家の方がいらっしゃいますから彼に頼んで眠らせる何かを作ってもらってそれで…」
「………っ」
明らかに動揺している彼に私は柔らかく微笑む。
「別に貴方の正体をバラそうとか、そんなことを考えているんじゃないの」
私はいつもの口調に戻す。
「貴方だって私の正体を知ってるのにバラさないでしょ?それと同じだよ」
「…わーったよ」
コナンくんは諦めたように息を吐いて頭を掻く。声もさっきより低くなった。
「なまえには勝てねーな」
「じゃなきゃ怪盗ブラックなんてやってられないわよ」
「あーはいはい」
観念したコナンくんはテーブルに置かれたカップを手にとって紅茶を一口飲んだ。
「お前の考えてる通り、俺は工藤新一だよ。子供になった理由は…」
彼の小さな口から語られる真実はとても大きなものだった。
アールグレイの香り
(彼が話さなかったのは周りの人を危惧してのことだと知り、なんだがとても泣きたくなった)