この前の遊園地以来、新一くんから連絡が来ることはなかった。

正直ありがたい。

だってどんな顔をして会えばいいのか分からないから。

「佐伯、ちょっと出掛けてくるね」

「それではお車を…」

「大丈夫。散歩してくるだけだから」

カジュアルな服装に身を包み、小さめなショルダーに財布と携帯を入れた。

「いってきます」

「お気をつけていってらっしゃいませ」

佐伯を含む数人の使用人に見送られて邸を後にした。

携帯を取り出して快斗に連絡しようとして止める。そういえば今日は友達と遊ぶとかなんとか言っていた。

青子や園子にも連絡しようとしたが、なんとなく1人でぶらつくことにした。



*****



「歩き疲れた…」

少し散歩するはずが結構歩き回ってしまった。いつのまにか入っていた公園のベンチに腰掛ける。

深く座り込んで空を見上げると、眩しいほどの青が目に飛び込んで来た。

そろそろお腹も空いてきたし帰ろうかな。

うーん、と伸びをして立ち上がろうとした時、ぽーんとボールが転がってきた。

「サッカーボール?」

誰かがここでやっているのだろうか。そう思ってボールを眺めていると、小さな女の子が『すみませーん』と手を振りながらかけてきた。

「はい、どうぞ」

しゃがんでボールを拾い、そのまま女の子に手渡す。

「お姉さんありがとう!」

まるで花が咲いたように笑う彼女に、私もにっこりと微笑んだ。

「お姉さん1人?」

「えぇ、少し散歩をしていたんです」

「そうなんだ!…あっ!!」

女の子は私の胸元に目をやって声をあげた。それにつられて自分の胸元を見る。そこにはお父さんから貰った誕生日プレゼントのネックレスがあった。

「それ知ってる!お姫様しかつけられないネックレスなんだよね!」

「え?」

確かに名前は“princess of jewelry”だけど…。

「ってことは、お姉さんってお姫様なんだね!!」

「えっと…」

困った。こんなに曇りのない眼差しを向けられるとなんて答えればいいか分からない…。

「歩美、本で読んだことあるよ!お城は退屈だから抜け出してきたんだよね!」

退屈はあってるけど、ね。

なんて答えようか迷っていると、“歩美ちゃん”は『そうだ!』と声をあげた。

「お姫様が1人じゃ危ないから、昨日出来たばっかりの少年探偵団で守ってあげるね!!」

「えぇっ?」

歩美ちゃんはボールを抱えて、空いてる方の手で私の手を掴んできた。そして『こっちだよ』と言いながら引っ張っていく。

「早く早くー」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

しかし歩美ちゃんは足を止めてくれない。

「おーい!みんなー!」

大きな声で叫ぶ歩美ちゃんの視線の先には、男の子が3人ほどいた。体格のいい子と、そばかすがある子と、眼鏡をかけている子。外見から小学校低学年ぐらいだろう。

「お姫様をつれてきたよー!!」

彼らは歩美ちゃんの言葉に私をまっすぐ見つめてきた。そしてなぜか、眼鏡をかけている男の子が目を丸くしている。

「はぁ?この姉ちゃんがお姫様だってのか?」

体格のいい男の子が不審そうな目で私を見上げる。

「うん!だってこのネックレス見てよ!!」

「これは…princess of jewelryですね!!」

歩美ちゃんといい、そばかすの子といい…なんでこの宝石のことを知ってるんだ?

「テレビで見たまんまですねー」

「でもよ、これが本物かどうかわかんねーだろ?」

「いや、本物だよ」

眼鏡くんがぽつりと呟く。

「それは珍しい鉱石から出来ていて、太陽の光に当たるとピンク色になるんだ。試しに手をかざして影を作ると…」

そう言いながら眼鏡くんはネックレスに手をかざす。すると今までピンク色だった石は青色に変わった。

それを見た子供達は感嘆の声をあげる。

「な?」

「すげー!!!」

「でも何で分かったんですか?日陰から来たわけでもないのに」

「だってつけてるのがなまえだぜ?偽物なわけないだろ」

からからと笑う眼鏡くん。しかし私は目を丸くした。

何で私の名前…。

「コナンくん、このお姉さんの名前知ってるの?」

「…げっ」

眼鏡くん、もといコナンくんもやってしまったというような顔をしている。

「お、お母さんと前にパーティーに行ったときに会ったんだよ!ねー!なまえお姉ちゃん!」

「え?」

コナンくんは私の手を取ってにっこりと微笑んだ。

いつのパーティーだろ…よく招待されてるから覚えてないな。

けど正直に覚えていないと言うのも可哀想で、私は曖昧にうなずいてみせた。

「そっか!お姉さんの名前、なまえさんって言うんだね!」

「素敵なお名前です!」

「あ、ありがとうございます」

子供から言われるとすごく気恥ずかしい。真っ赤な顔で微笑むと、歩美ちゃんに手を取られた。

「なまえお姉ちゃん!一緒に遊ぼう!」

「え?」

「いいですね!遊びましょう!」

「サッカーやろうぜ!!」

男の子2人にも手を取られ、ぐいぐいと引っ張られる。困ったようについていく私をコナンくんがじっと見ていたことには気づかなかった。



少年探偵団

(それにしてもコナンくんって誰かに似ている気が…)





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