“俺、なまえの事が…”
そう言われてぎゅっと目を閉じたが、一向に次の言葉が聞こえてこない。不思議に思ってそっと顔を上げると、新一くんは顔をひきつらせてある一点を見ていた。
気になってそちらを見ると、そこには怒った表情をした蘭ちゃんがいた。
「しーんーいーちー!!!」
「な、なんでお前がいるんだよ!帰ったんじゃなかったのかよ!」
蘭ちゃんは青筋を立てたままこちらに歩み寄ってくる。
こ、怖い…!
「帰ろうとしたら園子に会って新一がなまえちゃんに迷惑かけてるって聞いたのよ!!!」
「はっ!!?園子!!?」
「さっきまで一緒だったんだけどどっかに行っちゃって……って!そんな事より!」
蘭ちゃんは新一くんの耳を思いっきり引っ張った。
「なまえちゃんの邪魔しないの!!!デート中だったのよね?」
「え?え、えぇ」
何がどうなっているんだろう。だって園子には言ってないはずだ。私が快斗とデートする事は。
詰め寄っている蘭ちゃんと新一くんを見ながらうーんと唸っていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「みょうじ様ですよね?」
「はい、そうですが…」
振り返ってみると、そこにいたのは警備員だった。帽子を深く被っているので顔までは見えない。
「お連れ様がお待ちです」
「連れ、ですか?」
恐らく快斗の事だろう。それにしても警備員を使って私を呼ぶなんて一体どうしたのだろうか。
「どうぞこちらに」
「あ、はい」
「なまえっ!!まだ話は終わって…」
「だから邪魔しないの!私達はジェットコースターに乗るわよ!!」
「いててててっ!耳引っ張んな!」
「なまえちゃん、デートの邪魔してごめんね。残りも楽しんで」
満面の笑みを浮かべる蘭ちゃんに曖昧に頷き、私は警備員の後を追った。暫く歩き続け、気付くと建物の裏側、つまり人目のないところに来てしまった。不安になって彼に尋ねてみる。
「あの、快斗はどこに…」
「ここだ、ばか」
軽くため息を吐いたかと思うと、警備員は身ぐるみを剥がしてその正体を現した。
「か、快斗!!?何してるの!!?」
「何って、迎えに来たに決まってんだろ」
「だったら普通に迎えに来ればよかったじゃない」
「……それが出来たら苦労はしねーよ」
不意に彼の腕が伸びてきてその中に身体がおさまった。
「…お前、工藤と何があった?」
ビクリと身体が震える。
「心配なんだよ…」
ぎゅっと腕の力が強まる。息苦しいけど嫌ではなかった。
「……実は」
私はぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。あの日、新一くんと何があったか。その全てを話した。
「…なるほどな」
「あの、ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「だって…」
正体がバレてしまった。しかもよりによって高校生探偵の工藤新一くんに。
「私だけがバレるのは構わない。でもキッドがバレたら私…」
「俺の心配してくれるのはありがてーけど、だったら尚更早く俺に言わなきゃダメだろーが」
快斗は深く息を吐いて腕の力を弱め、そっと身体を離した。
「俺はお前を守るために隣にいるんだから」
「快斗…」
ニッと微笑む快斗に涙が溢れそうになる。それと同時に言いたい言葉があった。
「快斗、好きっ」
「なっ!!いきなり何言ってんだよ!!」
顔を真っ赤にしてあわてふためく彼を前にしながらもう一度言う。
「大好きっ」
新一くんが言いかけた言葉はもしかして告白だったのだろう。快斗と新一くんは顔や声がそっくりで、動けなかったのも新一くんの向こう側に快斗を見ていたからかもしれない。
私が好きなのは快斗であって、新一くんではない。
だから今、快斗に言いたかった。
「なまえ…」
そっと彼の手が私の頬に触れる。
私は静かに目を閉じた。
告白
(暖かい唇が私に触れた)