あれから、新一くんからは何のコンタクトもない。それは有り難いのだが心配になってしまう。
「はぁ…」
「5回目」
不意に聞こえた声。顔を向けると青子が苦笑して立っていた。
「どうしたの?なんだか元気がなさそうだけど」
「大丈夫ですよ」
彼女は前の席に座って私の机に頬杖をつく。そしてじーっと目を見てきた。
「もしかして、快斗と何かあった?」
「いえ、何も」
「そう…じゃあ他に何かあるの?」
まさか『新一くんにブラックが私だとバレた』などと言えるはずもなく、私は心配させないように笑った。
「大丈夫だよ。別に何もない」
素の口調で言ってみせれば、青子は安心したように微笑んだ。
「あ、そうそう。肝心なの忘れてた!」
「肝心なの?」
青子は一度席に戻り、カバンから何かを取り出してまたやってきた。
「はい、これ。トロピカルランドの特別招待券」
彼女が差し出したのは2枚のチケット。トロピカルランドは確か大きいテーマパークだったはず。
「私に?」
「うん。友達が彼氏と行くはずだったけど行けなくなって私が貰ったんだ。でも私もその日は予定あるから行けなくて」
チケットを見ると、日付が指定されていた。それは今週の日曜日。新体操の大会の次の日だ。
「快斗とまともなデートした事ないでしょ?だからなまえにあげようと思って」
「でもそんなの悪いよ」
「いーの。だって私が行けたとしても相手がいないし」
その言葉に胸が苦しくなる。本当だったら青子は快斗と行きたいんじゃないのか。
それが顔に出ていたのか、彼女は慌てて手を胸の前で振った。
「ち、違うよなまえ!快斗の事はもう何とも思ってないんだからね!」
「でも…」
「私はもうなまえを応援してるの。いつまでも気にしてたら友達やめるよ?」
いたずらっぽく笑って彼女は私の手を取った。
「確かに快斗が好きだったよ?でももう過去の事。それになまえには適わないもん」
「青子…」
「日曜日、楽しんでおいで」
彼女は今、とても清々しい顔をしている。おそらく彼女が言ってる事は本当だと思う。表情がそう言っているから。
「ありがとう」
「あ、お土産はクッキーがいいな」
お互い顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。
「うん、分かった。クッキーね」
青子はとても優しくて強い女の子。そんな彼女と友達で本当に良かった。
日曜日がすごく待ち遠しくなった。
2枚のチケット
(あのね、青子からチケット貰ったの。だから日曜日にトロピカルランドに行かない?)
(あぁ、いーぜ。じゃあ青子にお土産買って帰らねーとな)