「準備オッケーっと」
今回のターゲット、月下の盃(絵画)を頂くために出した予告状の時間が迫っていた。私達は月下の盃がある邸宅の反対に建っている時計台の中にいる。
「なぁ、本当にやるのかよ」
「なによ。今さら不安になったの?」
「当たり前だろ」
眉根を寄せる快斗を安心させるため私は笑った。
今回の作戦は私が囮になる。先に屋敷に侵入して混乱を起こし、それに乗じてキッドが月下の盃を盗みだすというものだ。
「いい?終わったらまたここに集合だからね」
「…分かりましたよ。どうせ言っても貴女は聞かないでしょう?」
彼はキッドの口調になった。それはもう仕事を始めるというもの。
「じゃ、また後でね」
小窓に足を掛けて振り返る。彼はまだ心配そうな目で私を見ていた。なのでニッと口角を上げて目を細めた。
「私の足を引っ張ったりしたら許さないから」
その言葉を残し、私は闇夜に姿を消した。
*****
「よっと」
屋上に降り立ち、翼をしまう。そしてあらかじめ用意していた服に着替えた。ちなみに今日は使用人の格好だ。
「これでいいかな」
カチューシャを付け、屋内へと続くドアを開けた。階下からはざわざわと声が聞こえてくる。
今日も青子のおじ様がいるんだろうなぁ。
彼がいると正直とてもやりにくい。友達の父親という以前に彼は頭が切れる優秀な刑事だ。
ゆっくりと階段を降り、みんなが集まっている部屋を通り過ぎて地下にある屋敷のブレーカーの所へとやってきた。
電気をつけてやれば誰かが来てしまう。そう思って電気はつけなかった。
懐から小さな時限発火装置を取り出してそこに取り付ける。
「あと10分ね」
腕時計で時間を確認してタイマーをセットする。
「よし」
「どうかされましたか?」
私以外誰もいるはずのない地下に、私はビクリと身体を揺らした。ゆっくりと振り返り、後ろにいた人物に目を丸くした。
「あ、貴方は…」
「こんばんは」
そこにいたのは、私とキッドの天敵。
工藤新一だった。
闇の中から
(現場で会ったのは今日が初めてだった)