あなたは気づいていないでしょう。
僕がこんなにもあなたを見ているという事を。

あなたは気づいていないでしょう。
僕があなたの隣にいるという事を。

あなたは気づいていないでしょう。
僕があなたに恋してるという事を―――…。




「なまえさん、これはどちらに置けばいいですか?」

今日は月に一度の大掃除の日。僕やアザゼルくんはそのために喚ばれ、大掃除に励んでいた。

「それは…あっちの棚にお願いします」

「はい、分かりました」

「なまえー!これはぁ?」

「それはこちらです」

頭の上に花瓶を乗せて遊ぶアザゼルくんを見て彼女は笑った。

その笑顔を独り占めしたいと思ってるなんて、彼女は気づいていないんだろうな。

ふぅ、と深く息を吐くと、さくまさんに『どうしたんですか?』と聞かれてしまった。僕は軽く頭を振って『なんでもありません』と告げる。

「それにしても、アザゼルさんとベルゼブブさんが文句も言わないで掃除を手伝ってくれるなんて珍しい事もあるもんですね」

「あんなぁ、さく。たまにはワシらかてちゃんと手伝うんでっせ?なめとったらアカン!」

「別になめてませんよ」

「ワシらかてやる時はやるんや!!なぁべーやん?」

「アザゼルくんと一緒にしないで頂きたい。私はいつだって真面目です」

「「嘘をつくな嘘を」」

さくまさんとアザゼルくんの言葉は無視して、雑巾で床を拭いているなまえさんに近づく。

「手伝います」

「ありがとうございます。助かります」

バケツにかけてある雑巾を手にして水に浸し、ぎゅーっと絞る。そしてそのまま床を拭き始めた。

「君達もお喋りばかりしていないでなまえさんを見習いなさい」

「ったく…なまえちゃんの前だと調子いいんだから」

「ほんまやで」

「聞こえてますよ」

なまえさんの前でかっこよく見せるのは当たり前じゃないか。誰だって好きな人の前ではかっこつけたいのだから。

「もう少しで終わりますから、アザゼルさんもさくちゃんも頑張って下さいね」

「はい」

「ちゅーしてくれたらもっとやる気が…」

「アザゼルくん!」

手をシャキーンと固くして、彼にゆっくり近づく。

「じょ、冗談やないか!」

「生憎君のは冗談に聞こえないんですよ」

「まぁまぁベルゼブブさん。アザゼルさんは場を盛り上げようとしただけですから」

「せ、せやせや!なまえちゃんの言う通りやで!」

「いくら場を盛り上げる発言だとしても、僕は許しませんよ」

「なまえちゃぁぁぁん!」

涙を流してアザゼルくんはなまえさんに飛び付こうとした。しかしそれよりも一瞬早く、僕の刃が牙を向いたのは言うまでもない。




あなたが気づくことはないでしょう。
僕がこんなにもあなたを見ているという事を。

あなたが気づくことはないでしょう。
僕があなたの隣にいるという事を。

あなたが気づくことはないでしょう。
僕があなたに恋してるという事を―――…。




あなたが気づくことはないね

(ベルゼブブさん!掃除を増やしてどうするんですか!!!)
(まぁまぁさくちゃん。スキンシップも大切だから)
(なまえちゃん!!?そんなレベルじゃないからね!!?)




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