君に告白出来ない僕は臆病者。
今の関係を壊したくないから、だから出来ないんだ。
「はぁ」
短いため息がこぼれる。それは誰に聞かれる事もなく消えた。
今日は彼女に会えるだろうか。
喚ばれなきゃ行けない人間界。今年は魔界と交錯しやすい年だが、だからといって簡単に行けるわけではない。
こんなにもどかしいだなんて。きっと彼女に恋をしなければ知らなかった。
「はぁ…」
今日何度目かのため息をこぼしたとき、コンコンとドアを叩かれた。返事をするとドアが開き、じいがいた。
「優一様、お客様がお見えでございます」
「客?」
「といいますか、お友達ですね」
ニッコリと笑みを浮かべたじい。友達なんてたくさんいるので誰が来たのか分からない。とりあえず部屋に通してもらう事にした。
「こちらでございます」
「おぉ、すまんなおっさん」
この声、この喋り方は…。
「べーやん元気にしとるか?」
「…アザゼルくん」
やはり彼だった。
「元気も何も、昨日会ったじゃないか」
「まぁまぁ、細かい事は気にせんと。ハゲるで?」
ニタッと笑う彼に自然とため息がこぼれる。
僕は今日何回ため息をつけばいいのだろうか。
「それで?何の用だい?」
「ん?いやいや、大した事やないんやけどな。なまえちゃんの事やねん」
「なまえさん…?」
彼女がどうかしたのだろうか。僕は眉根をぎゅっと寄せた。
「せや。べーやん、なまえちゃんの事好きやろ」
「んなっ!!?」
「気づかれてへんと思っとった?そんなんなまえちゃんぐらいやで。あぁ芥辺のやつはどうか知らんがな」
まさか、このベルゼブブの想いが周囲にバレているなんて!しかしよく考えてみれば思い当たる節がいくつもあった。なまえさんの隣に座らされてニヤニヤと笑われたり、わざと2人きりにされたり。
それをあの女に笑われていたかと思うと恥ずかしいのと同時に殺意が湧いた。
「悪魔が人間に恋するなんてなぁ。どっかの本じゃあるまいし。知ってるか?人間と悪魔の寿命の差」
「…そんなの」
言われなくたって分かってる。人間は長くて100年しか生きられない。それに比べて僕達悪魔は個体差こそあるものの、何千年と生きられる。
「…べーやんはなまえちゃんのどこが好きなん?」
「どこって…」
ふわりと笑うところ。
誰にでも優しいところ。
僕の食事を冷めた目で見なかったところ。
あげ出したらきりがない。だからそれは『彼女のすべてが好き』という事を意味しているのだろう。
「全部なんやろ」
「え…?」
僕が答えるより早く彼が言った。
「恋っちゅーのはそんなもんや。その人のすべてがいとおしいと思える。まぁワシが言えるような立場じゃないねんけどな」
「…そうですね」
ふっと笑みをこぼす。
まさかアザゼルくんに恋について言われる日が来るなんて思わなかった。
「なまえちゃんは人間でべーやんは悪魔。それはどうしようもない事実やし、変える事は出来へん。せやけどなまえちゃんに恋してるのは事実なんやし、思いっきりいったれや」
きっと待っていたのかもしれない。
誰かに背中を押される事を。
それがアザゼルくんだなんて笑ってしまうけど、感謝もしている。
僕はいい友達を持ったと思った。
この勇気はきみがくれた
(そうだね、頑張ってみるよ)