ついに予告状で指定した日がやってきた。園田邸はいつもより騒々しい。


…今までより人が多いな。


警察、警備員の他に恐らく園田が依頼したのであろう怖い顔のオジサン達もうじゃうじゃしている。もちろん青子のお父さんもこの場にいる。


警備員に変装した私は乙女の祈りがある部屋で待機していた。中央には乙女の祈り、その正面には園田。さらにそれを取り囲む警察や私達警備員。時間まであと10分。立ちっぱなしはやはり疲れる。それにしても快斗のヤツ一体どこに…。


「父さん」


「おぉ、隆治!」


ドアが開かれたかと思うと、園田家ご子息である隆治が入ってきた。彼は園田とは顔つきがまるで違う。学校では人気がありそうだ。


「すごい人だね」


「まぁな。これぐらいしないと」


隆治は園田から少し離れたソファーに腰掛ける。そして使用人を呼び、コーヒーを持ってこさせた。


「もうすぐだね」


「あぁ」


カチカチと置き時計の針の音がやけに聞こえる。時間が経つのが遅い。


そろそろ、かな。


ちらりと腕時計を盗み見る。秒針は確実に頂点に向かっていた。


5…4…3…2…1。


フッと暗くなる室内に騒つく警備員達。警察は慣れているのか動じていない。


「な、なんだ?」


「停電か!!?」


事前に電気系統が時間になるとショートするように仕掛けていた。


うん、時間ピッタリ。


ニヤッと微笑みながら、私はスッと窓を指差した。


「お、おいっ!あれは!」


小型変声機を使って叫ぶと、皆が一斉に窓を見た。


「ブラック!!?」


逆光で影しか見えないブラック。だが屋上にいる佐伯がブラックの格好をさせたマネキンをぶら下げているだけだ。


「像を護れ!」


青子のお父さんの言葉に、私は像に近づく。そして隠し持っていたレプリカとすり替えた。


よし、これで…!


「そこのキミ」


急に肩を叩かれ、私は身体を震わせた。振り返るとそこには園田がいた。


「それをどうするつもりだい?」


「…………っ!」


腕を掴まれて乙女の祈りは奪い返された。さらに警察に囲まれた私は逃げ場を失った。


くそっ!私が捕まるなんて!


「ついに捕まえたぞブラック!年貢の納め時だなぁ!」


青子のお父さんはガハハと大きく口を開けて笑っている。


煙幕を…!


空いてる手で胸元にしまってある煙幕弾を取ろうとするが、それを別の警察に阻止されてしまった。


どうしようどうしよう!


初めての事で頭が上手く働かない。ぎゅっと目を瞑り、絶望の中に身を投じたその時。


ボンッ


「な、煙幕!!?」


辺りを白い煙が包み込んだ。何が起こったのか分からず困惑していると、腰の辺りに腕を回された。


「まったく、貴女という人は」


耳元で囁かれた言葉。聞き覚えのある声に私は目を見開いた。



いないはずの貴方が
(この時は彼が救世主に思えた)


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