「いやー、みょうじ財閥のお嬢さんに来て頂けるなんて嬉しい限りですよ」


ソファーにどっかりと座った園田の言葉に私は引きつった笑みを浮かべた。普段なら佐伯が宅急便やら植木職人やらで潜入するのだが、どうしても今日は外せない用だかで私がやる事になった。


予告状を出された美術品、という事で園田はあらゆる人に見せていた。それを見るためにやってきたと言ったらすんなり通してくれた。


まぁ、私がみょうじ財閥の令嬢だという事も関係してるかもしれないが。


「突然押し掛けてしまって申し訳ありません」


「いえいえ。それにしても…」


そう言って園田は視線を私からある人物に向けられた。その人物はうひょーと言いながら並べられている美術品や骨董品を眺めている。


「彼はなまえさんとどのようなご関係で?」


「…クラスメイトなんです。彼はどうやら美術品や骨董品に目が無いみたいで、私が園田さんのお宅に伺うと話しましたら、あの乙女の祈りを一目でいいから見たいと」


「そうなんですか」


初めは訝しんでいた園田だったが、次第にその表情は和らいでいった。


どうやら怪しまれずに済んだみたいた。


彼にバレないようにそっと息を吐いた。そして快斗をギロっと見る。


一体どこで私が園田邸に行くと知ったのか。まさか待ち伏せされてるなんて。


「しかしなまえさんはお綺麗ですな。是非とも息子の嫁に来て頂きたい」


「そんな。私なんて隆治様に釣り合いませんわ」


出して頂いた紅茶を口に運ぶ。アールグレイの香りが口いっぱい広がった。


「はっはっはっ。あぁ、そういや乙女の祈りを見に来たんでしたな。おーい」


園田が大声で呼ぶと、警備員2人が物々しくそれを運んできた。写真よりも何十倍も綺麗な像に目を奪われる。


「これが乙女の祈り…」


「えぇ、綺麗でしょう?」


自慢げに話す園田。しかしこれは元はといえば泉河さんの物だ。家宝として大切にしていた乙女の祈りを奪うだなんて。


私は園田に向けて張りつけた笑みを浮かべた。


「これが乙女の祈りですか」


さっきまで離れていた快斗がいつの間にか私の隣に座ってまじまじと見ていた。


「一体何カラットあるんです?」


「さぁ、私は金に糸目は付けないのでね。何カラットだろうが関係ないのだよ」


「へぇ…当日はさぞかし厳重な警備なんでしょうね」


「もちろんだとも。警察、警備員、いろんな仕掛けを施して待っているよ」


「例えば?」


「それは教えられませんよ。色々な仕掛けですよ。色々なね…」


嫌な笑みを浮かべた園田に、私達も適当に応える。


これは、侮ってはいけないかもしれない。


なぜだかそう思った。



その輝きに目を奪われる
(いろんな仕掛け、ね…)


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