「なまえ、もういいのか?」
窓を開けて風に当たっていると、後ろから声をかけられた。
「うん。歩けるまでに回復したし。このぐらい全然平気だよ」
振り返ると、ケーキの箱を持った快斗がいた。
「あ、それ有名なお店のケーキじゃん」
「まぁな。前に食べて美味かったから買ってきた」
快斗はケーキをテーブルに置き、棚から皿とフォークを出してくれた。
私もソファーに座り、箱の中身を覗き込む。
「美味しそう」
「美味しそうじゃなくて美味いんだよ」
「はいはい」
適当に相槌を打ち、ケーキを箱から取り出して皿に乗せた。そして片方を快斗に差し出す。
「いただきます」
フォークで掬い、口に運んだ。甘い香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
「だろ?」
「ありがとう、快斗」
「どういたしまして」
それを最後に、私達は口を開かない。風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「………あのさ」
この静寂が耐えられなかったのか、快斗がゆっくりと口を開いた。
「この前の事だけど」
それはおそらく、私が快斗にした告白の事。私は平然を装ってもう一口ケーキを食べた。
「俺、ちゃんと返事してなかったなって思って…」
青子にはちゃんと言った。私は快斗が好きだと。すると彼女は一瞬悲しそうな顔をしたけどすぐに笑顔になって言ってくれた。
“私も快斗が好きだけど、それ以上になまえが好き。だから応援するよ。それに…”
最後は誤魔化されて何を言おうとしたのか分からないけれど、すっきりした。
これでダメでも悔いはない。
「俺、最初になまえを見た時はつまんない女だと思った。心から笑わねーし、本性を見せねーし」
確かに学校での私は作られた私だった。友達と呼べる人だっていなかったし、いつも1人だった。
「でもお前がブラックだって知って近づいた時、お前笑っただろ?手品を見て」
「そう、だっけ?」
「あの時のお前の笑った顔が忘れられなくて。もう一回見たいと思っていつも一緒にいるようになって。青子や俺と話す時のお前はよく笑うようになって。気付けば…す、好きになってた」
シン…と再び静寂が訪れる。
え、今…快斗…。
「………っ、なまえが好きだ」
真っ赤な顔でまっすぐ私を見つめる快斗から目が逸らせない。
「それなのにお前は俺の事なんとも思ってないし、しかもキッドは天敵だ!とか言うし、仕事中だって俺に勝とうとして危ない目に合うし…だから協力させれば傍にいて護れると思った」
だから彼はあんなにしつこかったんだ。俺に協力しろって。
「なのに俺を庇って大ケガして。俺は自分に腹が立った。好きな女を護れないなんて何してんだって」
「快斗…」
「だから誓う。もうお前にケガさせない。必ず護る。だから俺の傍にいてほしい」
「…………うん。私も快斗の傍にいたい。ずっとずっと」
どちらかともなく、私達は口付けを交わした。まるでそれは誓いの口付け。そう言ったら快斗は照れてさらに顔を真っ赤にさせた。
モノクロな私達。
彼は白で、私は黒。
全く違う2色だけど、隣にいればカラフルに彩られる。
これからも描いていこう。
たくさんの色で、私達の物語を――…。
モノクロな私達
(あ、でも私が協力するんじゃなくて快斗が私に協力するんだからね)
(はいはい)