「…ここ、どこ?」


周りを見渡せば、私を囲むようにして花が咲いている。そう、お花畑に私はいた。


「お花畑?」


目の前に咲いている小さくて白い花を摘む。


「でもなんでここに…」


確か私はキッドを、快斗を庇って撃たれた。最後に見たのは快斗の泣きそうな顔。


初めて見た。快斗のあんな顔。いつもはバカやったり私や青子と言い合いしたり楽しそうに手品をしてるのに。


なんであんな顔をしたんだろう…。


ズキン


「?」


ズキン、ズキン


胸の辺りが痛い。快斗を想うとズキズキと痛みだす。


なんでだろ…病気?


落ち着かせようと深呼吸するのだが、まだ胸が痛い。


「どうしたの?」


聞こえた声にはっと顔を上げる。目の前には両手いっぱいに花を摘んだ私がいた。


「私…?」


「そうだよ」


「え、なんで?」


「あなたの中にいるもう1人の私だから、かな」


ワタシは微笑んで、私の視線に合わせるようにしゃがんだ。


「ココが痛いの?」


「あ、うん…」


ワタシは指を私の胸に当てた。そこはまだズキズキと痛い。


「快斗の顔を思い出してからずっと痛いの」


「そっか」


「どうしたらいいの?」


どうしたらこの胸の痛みは消えるの?


するとワタシはニッコリと微笑んで口を開いた。


「それはね、認めるんだよ」


「認める?」


「うん。私はね、快斗が好きって」


私が快斗を好き…?


「そんな事あるわけない」


「なんでそう思うの?」


「だって快斗は私の天敵で、それに…」


「それに?」


「……青子の好きな人だよ」


私の一番の友達。中森青子。一緒にいたから分かる。彼女はずっと快斗が好きだ。


「だからって自分に嘘をついたままでいるの?」


「だから私は快斗なんて…っ!」


ズキンッ


「………っ!!?」


さっきまでとは違った鋭い痛み。私は胸を押さえて身体を前に倒した。


「はぁ、はぁ」


「……ねぇ、私」


ワタシは苦しい私の頭を撫でる。


「素直になって?あなたの傍にはいつも誰がいたか。あなたを笑顔にさせてくれるのは誰だか。あなたが素を出せるのは誰の前だけか」


私の傍に…?


“なまえ!”


いつも快斗がいてくれて。


“新作手品が出来たぞ”


いつも快斗が笑わせてくれて。


“怒んなよなまえ。素が出てるぞ?”


素に戻るのは快斗の前だけ。


「後はあなたが認めるだけだよ」


「認める…」


ぐっと下唇を噛んで拳を握る。


そうだ、私は認める事が怖かった。快斗が好きだと認めてしまったら青子を失う気がして。快斗が好きだと認めてしまったら私を失う気がして。


だから快斗をキッドとして見るようにした。


そうすれば私の天敵だし、張り合う事で自分の中の気持ちを殺した。


「私は、快斗が好き…」


「うん。ほら、もう痛くないでしょ?」


ワタシに指摘されて気付いた。さっきまでズキズキと痛かった胸は、いつの間にかトクントクンと暖かいものが広がっていた。


『なまえ…』


突然、快斗の声が聞こえてきた。私を呼ぶ、好きな人の声。


「快斗が呼んでる」


『なまえはまだ起きないの?』


「青子まで…」


「よかったね、私」


見るとワタシは光の粒となっていく。


「早く起きて伝えてあげて」


みんなが、快斗が好きって…。


そう言い残し、彼女は私の中に入っていった。


そうだ、早く起きて伝えよう。


私の大好きな人達に――…。



私の中のワタシ
(そして私は光の粒となって消えた)


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