ピッピッピッという、規則正しい機械音だけが聞こえてくる。俺を庇って撃たれたなまえ。手術は成功し、命に別状はないのだがまだ目を覚まさない。
そんな彼女の手を握り締め、俺は椅子に座っていた。
「…快斗様」
花瓶の水を変えに行っていた佐伯さんが戻ってきて俺の名を呼んだ。
「お嬢様は私が見ておりますので、どうか学校に行って下さい」
「…嫌です」
「快斗様…」
「なまえを護るはずの俺の不注意で彼女に大ケガをさせてしまった。それなのに学校に行けるわけないでしょう」
俺があの時、警察に気を取られていなければなまえが撃たれる事もなかった。
握っている手に力を込める。自分が情けなくて悔しくて。色んな感情が沸き起こってくる。
「ごめん、ごめんなまえ…ごめん」
今はただ、彼女に謝るしか出来ない。
「……快斗様」
佐伯さんはそれ以上何も言わなかった。沈黙が病室を支配していた時、勢い良く病室のドアが開かれた。
「なまえっ!」
悲痛な声で駆け寄った女の人はなまえの母親だ。アメリカから急いで帰国したのだろう。
「佐伯、なまえの容体は!!?」
「手術は無事に成功し、後は目が覚めるのを待つだけでございます」
「そう…」
彼女は心底安心したのか、ソファーに傾れ込むように座った。そして視線を俺に向ける。
「快斗くん、なまえについていてくれてありがとう」
「………お礼を言われる資格なんてありません」
そう言った俺に、彼女は柔らかく笑った。初めて会った時、俺になまえを助けてあげてと言った時と同じ笑みだ。
「そんな事ないわ。貴方を庇ったのはこの子の意志なんだから気に病む必要はないし、それに今まで護ってくれてたでしょう?十分にお礼を言われる資格があるの」
「夏子さん…」
「だからもう、自分を責めるのはやめなさい。じゃないとなまえに怒られるわよ?」
「っ、はい」
いたずらっぽく笑う彼女はやはりなまえに似ている。違うか、なまえが夏子さんに似ているんだ。
「奥様、旦那様はいらしてないのですか?」
「当たり前でしょ。それにあの人には言ってないもの。なまえが撃たれたって」
「奥様…!」
「いいのよ。言ったらあの人死んじゃうわ。ショック死で」
「…………それもそうですね」
この会話から、なまえが父親に溺愛されているのが分かる。そういや以前言ってたな。『別々に暮らすのにお父さんを説得するのが大変だった』と。
「…さて、私はもう帰るわ」
「えっ、帰るんですか?なまえはまだ目を覚ましていないのに」
「この子なら大丈夫よ。佐伯がついてるし、何より快斗くんがいてくれる」
夏子さんは小さなバッグを手にして立ち上がる。
「それにしても快斗くんってなまえを愛してるのね」
「はいっ!!?」
「ふふっ、青春っていいわぁ。佐伯、空港までお願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました」
そうして彼女は病室を出ていった。夏子さんのおかげで暗くなった俺の心はいつの間にか軽くなっていた。
俺の心は見透かされていた
(大丈夫、なまえは絶対に目を覚ます)