「こんにちはー」


今、私は浦原商店にいる。この間助けてくれた喜助さんにお礼をしたくて。


「……いないのかな?」


悪いとは思いつつも、店の奥にある部屋の襖を開けた。


「誰かいませんかー?」


呼び掛けても静寂があるだけ。戸締まりを忘れて出かけてしまったのだろうか。


仕方ないから後で出直そう。


そう思って引き返そうとした時だ。


ドクン


心臓が力強く脈打った。


な、に…?


部屋の奥から何かの気配を感じる。虚を見た時とは違った感情が流れ込んでくる。


自然と足が向かう。


人の家に勝手に上がり込んじゃいけないと思いつつも、私の歩みは止まらない。


タンスの引き出しに手を掛ける。するとそこには紅く輝く珠があった。


「綺麗…」


その紅さに魅せられ、手に取ろうと伸ばした。


「それに触れてはならぬ」


突然聞こえた低い声に、私の身体が跳ねた。


「すっ、すみませんっ!………あれ?」


慌て振り返るとそこには黒猫がいた。


あ、夜一さんだ。たぶん。


「こんにちは、夜一さん」


しゃかんで夜一さんを抱き上げる。


「それにしても、さっきの声は…」


「儂じゃ」


また聞こえた。幽霊にしては姿が見えないし。


ここには私と夜一さんだけ。


……………………………ん?


「あははー、まさかね。ナイナイナイ!」


猫が喋るなんて。いやコンはぬいぐるみだけどアレはまた別物だし。


「夜一さんなわけ…」


「儂じゃと言っとろうが」


「喋ったぁぁぁぁぁ」


軽くトラウマになりそうです。





*****





「あははー。だから言ったじゃないっスか、夜一さん」


騒ぎを聞き付けた喜助さん達とちゃぶ台を囲んでいる。


「いやいや、相変わらずヒトの驚く瞬間は面白いの」


座布団にちょこんと座った夜一さんがニヤッと笑う。


「お茶、どうぞ」


「あ、ありがとう」


遊子と夏梨ぐらいの女の子がお茶を出してくれた。それを一口飲む。


「茶菓子もありますぞ」


「はぁ…」


キラーンとメガネを輝かせたマッチョのおじさんが茶菓子を出してくれる。あまりにも強烈すぎるそのキャラに私は顔を引きつらせた。


「おっ!饅頭だ」


「ジン太殿!それはお客人に出したものですぞ」


「な、なにすんだよ!」


マッチョさんはジン太と呼ばれた男の子を軽く持ち上げる。


さすがマッチョ!


「そうそう、今日はどうしたんですか?」


「この前のお礼に伺いました」


持っていた折菓子を喜助さんに渡す。


「そんな、お礼なんていいのに」


「いえ、本当に気持ちだけなんです」


頭を下げると、喜助さんはやっと受け取った。


「有り難く頂きます」


「大層なものじゃないですけど…」


近所の和菓子屋さんで買ったものだ。しかし喜助さんはゆっくり頭を振った。


「そんな事ないっスよ〜。それに和菓子は好物です」


「良かった」


ほっと胸を撫で下ろし、私はもう一度お茶を飲んだ。



END



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