「いってぇ!」


部活中にこだました声。聞こえてきた方向を見ると、おかっぱ頭の向日くんが膝から血を流していた。


「岳人!大丈夫か?」


「別に骨折したわけじゃねーんだから落ち着けよ侑士」


転んだ本人は極めて冷静で、代わりに忍足くんがおろおろしていた。


「せやけどバイ菌が入ったら大変なんやで?なまえちゃん救急車!」


「だから落ち着けよ」


とりあえず私は部室から救急箱を持ってくる。そして向日くんの傷口を洗ってからベンチに座らせた。


「忍足くん、手当ては私がするから練習に戻りなよ」


「せやけど心配やし」


「ガキじゃねーんだから大丈夫だっての」


「全然おこちゃまやんぶふぉ」


「いいから戻れ」


まるで漫才を見てるような2人のやりとりを見ながら、消毒液を脱脂綿に湿らせる。


向日くんに殴られた忍足くんは、赤くなった鼻を押さえながら渋々練習に戻っていった。


「……っ」


「ごめん、痛い?」


「っ、平気」


だけど向日くんは目をギュッと閉じて痛みを耐えていた。なるべつ染みないようにしたいけど、それは難しかった。


どうやらネット間際に落ちたボールを追い掛けた際、滑って転んだそうだ。


膝の他にも肘や顎などに擦り傷があった。


それらも丁寧に消毒していく。


「なぁ、手当てに慣れてるのってやっぱり良く喧嘩するから?」


「幼なじみの家が病院でたまに手伝ったりするから、それで」


といっても、今みたいな簡単な治療や包帯を巻く程度だが。


向日くんは興味なさそうに『ふーん』と呟いた。


「喧嘩してケガした時はそこで治療してもらうし」


「なんで喧嘩するんだ?」


「売られるんだよ。まぁアイツほどじゃないけど」


「アイツ?」


「幼なじみ」


一護は生まれつきの髪色のせいで上級生や街の不良から喧嘩を売られる。彼も短気だからすぐに買ってしまう。


「髪色が気に食わない、態度が気に食わない。ナンパされて断ったら手を出してきたり。そんな感じ」


「今も喧嘩するのか?」


「………そういえばしてない」


いつからだろうか。最近の私は喧嘩をしなくなった。


そうだ。あれはたぶん…。


「芥川くんと会ってからだ」


彼と出会ってから毎日が忙しかった。それに今は放課後に部活をしているから、喧嘩を売ってくるヤツらにも会わない。


だから、最近喧嘩をしてないんだ。


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