今日は水曜日。どうやら練習はないみたいだ。


昨日の夜一さんという黒猫に会うべく、私は誰よりも先に学校を後にした。





*****





そもそも、一護に場所を聞かなかったのがいけなかったんだ。


「どこ、ここ」


生まれ育った街で迷子になるなんて、絶対に一護やたつきには言えない。バカにされるのが目に見えてるからだ。


「困った」


うーんと悩みながら空を仰ぐ。すると頭上に例の化け物が飛んでいるのが見えた。


まただ。


最近見えるようになったあの化け物。近くで見た事はないが、あれがいいモノとは到底思えなかった。


それにあれを見ると胸の辺りが騒つく。吐き気に似たような、そんな感じ。


だけど化け物から目が離せない。


……と、突然後ろから蒼い光が駆け抜けてあの化け物に当たった。


化け物は悲鳴をあげて消え去る。


「なんだろ…」


「あれは虚と言うんだ」


人の声に振り返ると、そこには学生服を着たメガネの男の人が立っていた。


「ほろう?」


「霊が凶暴化したモノだよ」


彼は中指でメガネを押し上げる。


「君もどうやら霊力が高いみたいだから気を付けたほうがいい」


「どうして?」


「虚は霊力の高い人間を好んで襲う」


その話に私は眉をひそめた。


人間を襲う…?


「その様子だと何も知らないみたいだな」


メガネの人は呆れたように深く息を吐く。というか見ず知らずの人に呆れられる意味が分からない。


「…というかアンタ、誰?」


「僕は石田雨竜。滅却師だ」


「クインシー?」


聞いた事のないそれに、私は訝しげに目を細めた。


「アイツに聞いてないのか?」


「アイツ?」


「黒崎一護」


一護…?


なぜ彼は一護を知っていて、そしてなぜ一護の名前が出てくるのだろう。


「アンタ、一護の何?」


「好敵手、と言った方がいいかな」


もう、わけわからない。


どうしてこう次から次へと悩みの種が増えるのだろうか。痛む頭を押さえて彼を見据えると、その瞳には静かなる闘志が宿っていた。


「まだ何も知らない君が浦原商店に行っても意味はない。さっさと帰った方が賢明だ」


「アンタ、それも知ってるの?」


「だから言っただろ、僕は黒崎の好敵手で滅却師。死神を憎んでいる」


「しに、がみ…?」


「詳しい事は黒崎から聞けばいい。だからさっさと帰るんだ」


石田と名乗った彼は、踵を返して立ち去っていく。


「なにがどうなってるの…」


結局答えが見つからないまま、石田くんの言う通りに家に帰ろうとした。


「しまった、迷子だったんだ私」


私は慌てて、石田くんを追い掛けた。彼しか助けを求められなかったからだ。


石田くんは呆れて私を見覚えのある道まで案内してくれた。




私は暫く、一護に聞く事が出来なかった。


あの姿を見るまでは。



END



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