『みょうじなまえです。とりあえずよろしく』
ぶっきらぼうで簡単に自己紹介をする彼女は、ジローのお気に入り。
ジローが気に入ってるんだから、彼女は悪い奴じゃないと分かる。
「宍戸さん、どうしてみょうじさんに話し掛けられるんですか?」
「あ?」
朝のジョギング中、後輩の鳳長太郎が声を掛けてきた。
「昨日の部活で話してましたよね?彼女の噂知ってますか?」
「知らないわけないだろ」
おそらく校内で彼女を知らない奴はいない。それほど彼女は有名人(もちろん悪い意味で)だ。
「じゃあなんで…」
「俺は伊達にジローと一緒にいねぇよ」
そう答えれば、長太郎は目を丸くした。
「それだけですか?」
「あぁ」
「だって、あの噂…」
長太郎が言い終わらないうちに、コツンと軽く叩く。
「噂は所詮噂だろ?」
そう、噂は所詮噂なのだ。
目が合っただけで殴られるとか、ヘビースモーカーとか。そんなのは噂に過ぎない。
それに昨日みょうじと話したら分かった事がある。
目の奥が優しかった。
忍足とかに言ったら笑われそうだから絶対に言わないが。
そんな彼女が噂通りの行動をするとは思えなかった。
現に目が合っても殴られなかったし。
「こんな事なら、もっと早く話してれば良かったな」
「え?何か言いました?」
「いや、なんも」
「おまえら!話しながら走ってんじゃねぇ!!」
先頭を走る跡部から叱咤される。長太郎は慌てて謝り、ジョギングに専念する。
俺も『スマン』と軽く謝ってペースを少しだけ早めた。
ジローと同じように、彼女がマネージャーになってくれるよう願いながら。
優しい瞳
(放課後が楽しみだ)
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