お父さん達がいなくなってすぐ、喜助さんは『さて』と呟いた。


「みなさん、今日はお疲れ様でした。怪我をしている方は治療をしますので、一先ず店に行きましょう」


それを聞いて私は脇腹がじんじんと痛むのを感じた。さっきまで忘れていたけど、私も怪我してるんだっけ。そこを見ると袴が血で赤く染まっている。


「大丈夫か?」


不安そうに眉尻を下げている一護は私の脇腹を見ていた。


「ちょっとヒリヒリするけど大丈夫。深くないから」


「じゃあ痛いんだろ?井上!」


彼はルキアと話している織姫を呼ぶと私の傷の状態を話し、織姫は頷いて私の脇腹に手を当てた。


「双天帰盾、私は拒絶する」


淡い光が傷口を覆う。暖かいその光は次第に私の傷を直していった。


「ありがとう織姫」


「ううん、私に出来る事はこれくらいだから」


「そんな事ないよ」


お兄さんが亡くなってからも寂しさを見せずに気丈に振る舞い、私達に元気をくれる織姫。そっと手を伸ばし、彼女を抱き締めた。


「大好きだよ、織姫」


「なまえちゃん…!」


耳まで真っ赤にして慌てる織姫を目の端で見ながら腕の力を強めてすぐに解放する。


「あ、あたしも大好きだよ!」


「うん」


「他に痛いところはない?」


「平気だよ。でも一護が痛くて泣いてるから治療してあげて?」


「誰が泣いてんだよ」


コツンと頭を叩かれて曖昧に微笑んでみせる。


「よく泣いてたじゃん。紙で指切った時とか、転んで擦りむいた時とか」


「ガキの頃の話だろ!」


などと言い合いをしている私達を見つめていた狼焔が静かに口を開いた。


「てかさ、お前ら忘れてるかもしれないけど、一護がなまえを好きだってバラされてたぞ」


「「…………は?」」


「桐生に『好きな女の前じゃ』って。一護は否定してなかったし」


「「んなっ!!?」」


2人してボンッと顔が赤くなる。


「なななな何言ってんだよ!」


「あああああれは桐生さんの勘違いか何かでしょ!!」


「説得力ねーよ」


「「―――〜っ!!!」」


私達はぐるっと後ろを向いて足早に歩き出す。


「な、なんであんたまでこっちに来るのさ!」


「なまえだってついてくるなよ!」


「一護がこなけりゃいい話でしょ!」


「なまえがこなけりゃいいんだ!」


いつもの言い合い。だけどちょっぴり違うのは、私達の精一杯の照れ隠しだって事。


「一護なんか」


「なまえなんか」


それはほんの少しだけ。ミクロとかマクロとか、それだけかもしれないけど。


「「好きじゃない(ねぇ)!!!!!」」


確かに距離が縮まった。


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