真っ暗な闇が広がっている。辺りを見渡してもあるのは闇だけ。しかし私の隣にいる狼焔の顔ははっきりと見える。
「ここは一体…」
闇しかない世界。それなのに不思議なほど落ち着いていた。
「…ここはたぶん、なまえの心の中」
「私の心の中?」
こくりと頷く狼焔。そして呟くように口を開いた。
「ここに来るのは2回目、だな」
「えっ?」
2回目という事は一度来た事があるのか。狼焔を見上げると彼はひどく悲しそうな顔をしていた。
「前になまえが桐生に操られた時、あの時も俺はここにいた。その時はなまえは意識があったから声だけ聞こえていたが…」
「私の記憶が戻る前は?」
「それはなまえの心境によって様々だったけど、こんなに暗い事はなかった」
私が嬉しければ晴れて、私が悲しめば雨が降るらしい。雨が降った日でも薄暗い程度で真っ暗な闇にはならないようだ。
「とにかくここから抜け出さなくちゃ。一護が心配してる」
「しかしどうやってだ?お前は完璧に桐生に操られてるんだぞ」
「でもやらないと」
とにかく私は歩き出した。暫くはついてこなかった狼焔だったが、息を深く吐いて頭を乱暴に掻いた後歩き始めた。足の長さがまるで違うのですぐに追い付かれた。
「うーん、やっぱり出口とかないかぁ」
「そりゃあな。あくまでお前の心の中だし」
「意識が遮断されてるからここに閉じ込められてるんでしょ?なんとかして外と繋がれないかな」
壁があるわけでもない、ドアがあるわけでもない。無限に続く闇という迷路をさ迷っている。
“……………!”
「ん?」
「今、声がしなかったか?」
“……………!”
ほら、やっぱり…。
「しっ」
人差し指を口に当てて狼焔を静かにさせる。そして耳をすました。
“…………なまえっ!”
「一護?」
聞こえた。はっきりと。
私を呼ぶ、一護の声が。
するとその時、小さな光がどこからか差し込んだ。それはまるで映写機みたいに私達の目の前に何かの映像を映している。
「…なぁ、これって」
「うん。たぶん外の様子かな」
映像には私の姿は一切映っていない。ということは“私が”見ている光景なのだろう。
「一護っ」
声をあげてみる。だが彼には届かなかった。
さっきまで不安なんてなかったのに、彼の顔を見ているとそれが込み上げてくる。
「一護!一護!」
誰も傷付けたくないのに私は剣を振るう。斬魄刀から飛び出した焔がみんなを襲っていた。
「なまえ…」
「大丈夫だよ狼焔。とりあえず外と繋がってるから、今のうちになんとかしないと」
「…そうだな」
淡く笑う狼焔に私も返した。
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