「黒猫…?」
振り返って見てみると、塀の上に横たわった黒猫がこちらを見ていた。
「よ、夜一さん!!?」
「知り合い?」
「知り合いっつーか…」
夜一さんと呼ばれた猫は起き上がって伸びをし、華麗に降り立った。
「よ…」
「うわああああ」
突然、一護は夜一さんの口を抑えた。夜一さんはモゴモゴと何かを訴えている。
「今、“よ”って言わなかった?」
「いいい言ってねーよ!」
一護はブンブンと頭を振る。
なんだか怪しい。
夜一さんを見ると顔色が悪くなっていた。
「そろそろ放してあげないと…」
ガリッ
「いってぇぇ!!!」
「窒息……って遅いか」
一護は見事に顔面に三本の爪痕が付いた。
*****
私の腕の中には夜一さんがいる。一護に口を塞がれて窒息しそうになったのを根に持っているのか、一護に触られるのを嫌がった。
「いたそー」
「痛いんだよ」
爪痕を残したまま歩く一護が可笑しくて笑ったら殴られた。
それにしても…。
腕の中にいる夜一さんを見た。夜一さんは私を見上げて目が合う。
「どうした?夜一さんをじっと見て」
「いや、私…」
どこかで見た事がある…?
……まぁ、黒猫なんてどこにでもいるし。
「なんでもない」
「はぁ?」
きっと、私の勘違い。
「ニャーオ」
「あっ」
夜一さんは身を捩って地面へ降り立つ。そして私と一護を見てからその姿を暗やみへと消した。
「何しに来たのかな?」
「……………」
「一護?」
黙った一護の横顔を見ると、何か考え込んでるようだ。
「おーい」
「え?あ、わり」
私の声に我に返った一護だが、まだ心ここにあらずといった感じだった。
「夜一さんってどこの猫?」
「浦原商店…だと思うたぶん」
「随分あやふやだね」
「飼ってる、とはまた違うんだよなぁ」
ポリポリと頬を掻き、夜一さんが消えた方を見る。
私も同じように前を見る。
暗やみのそこはまるで違う世界への入り口のようだった。
END
[←] [→]