「こんにちはー」


引き戸を開けて中を覗き込む。誰もいないのかな、なんて考えていると奥からテッサイさんが顔を出した。


「なまえ殿!よくぞお出でに!」


「お久しぶりです。なかなか伺えずにすみません」


「いえいえ。お元気そうで何よりですぞ」


ムキッと筋肉を見せるテッサイさんに『ははっ』と乾いた笑いを浮かべる。狼焔は耳元で『会うたび筋肉を見せられてもどんな反応していいかわかんねーよ』と呟いた。


私もそう思うよ、狼焔…。


「喜助さんと夜一さんは中に?」


「えぇ、いらっしゃいます」


「あのチビ共は?」


「公園ですな」


子供は風の子と言いますし。と嬉しそうに言うテッサイさん。彼は子供が好きなんだなぁ。


「さ、どうぞ」


「お邪魔します」


テッサイさんに促され、私と狼焔はお店に上がった。


「あ、なまえさん。いらっしゃーい」


「よく来たな」


喜助さんは扇子で扇ぎ、夜一さんはお茶をすすっていた。この光景を見ているとなんだかとても和む。


「お久しぶりです」


「用件は…って、聞かなくても分かりますが」


喜助さんの視線がゆっくりと狼焔へ向けられる。


「以前言っていた、なまえさんの死神の力を無くすってやつっスね」


「……あぁ」


真剣な顔付きで頷く狼焔。喜助さんはしばらく見つめたあと、ふぅと息を吐いて扇子を閉じた。


「本当にいいんですか?消えてしまうんですよ?」


「あぁ」


「…なまえさんはいいんですか?」


狼焔から視線を私に移す。


「いいわけないじゃないですか」


「なまえ…!」


「狼焔は生まれた時からずっと一緒にいる大切な人なんですよ?1人で勝手に考えた事に私は賛成なんてしません」


ぎゅっと握った拳を振り上げてそのまま狼焔の頭に降り下ろした。


「いでっ!!!」


「狼焔、私は貴方がいなかったら今ごろ死んでた。そんな命の恩人を殺せっていうの?」


「けど、お前に死神の力がある事でまた危ない目に遭うかもしれないだろ!」


「そんなの分かってるわよ」


虚だって、桐生さんみたいな敵だって現れるだろう。でも不思議と怖いとは思っていなかった。


「もし強い敵が現れても今の私にはみんながいてくれる。護りたい人がたくさんいる」


家族や空座町のみんな、氷帝の友達。護りたい人が増えた。


「護られるばかりじゃダメなの。だから狼焔、私には貴方が必要なんだよ」


そっと彼の頭に触れる。すると彼は俯いて考え込んでしまった。


「……俺は、お前が傷付くのは嫌だ」


ポツリと呟いた言葉は私の胸をぎゅーっとさせた。


「けど、お前を護れないのも嫌だ」


「狼焔…」


ぎゅっと何かを決心した狼焔は顔を上げ、ニッと笑った。


「嫌だっつっても離れないからな」


「狼焔…!」


「決まったみたいっスね」


扇子を広げ、喜助さんはパタパタと扇いでいる。


「やっぱり狼焔はなまえが大好きみたいじゃな」


夜一さんの言葉に狼焔は“ふんっ”と鼻を鳴らしてそっぽを向く。しかし耳まで真っ赤なその姿に私達は顔を見合わせて笑ったのだった。




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