「もう飽きましたね」


桐生さんの声に、私はお父さんへ攻撃をピタリと止める。


「貴方には死んでもらいましょう」


「はぁっ、はぁっ」


お父さんは肩で大きく息をしている。疲れているのが目に見えて分かる。


「では、最期に教えて下さい」


か細い声が届く。それを聞いた桐生さんは眉間に皺を寄せた。


「何ですか?」


「……なまえをどうするつもりですか」


「くだらない事を聞きますね。この子の能力は素晴らしい。この力を手中に納めれば世界を手に入れる事が出来る」


「貴方が、そんな事を考えていたなんて驚きですね」


「そうですか?僕はね、手に入れたいんですよ。現世も尸魂界も。そうすれば…」


途中まで言って、彼は口を閉じた。そしてお父さんを真っ直ぐ見据える。


「…もういいでしょう。死にに逝く人にこれ以上教える事はない」


手が、身体が勝手に動く。剣先がお父さんへと向いた。


「これで終わりです」


私の中の全てが刀に集まる。


いやだっ


いやだいやだいやだっ


お父さん…っ!


「…なまえ、私は貴女に謝らなければなりません」


私を見つめたまま、お父さんは辛そうな顔で口を開いた。


「もっと早く貴女の霊圧を封じておけば悲しい思いをさせなかった。このままにしておけばいずれ尸魂界がなまえに気付くという事ぐらい分かっていたのに。ダメな父親ですね」


お父さんが何を話しているのかほとんど理解していなかった。


ふうじる?


ソウル・ソサエティ?


なに、いってるの…?


斬魄刀をしまい、目を瞑って両手を広げるお父さん。それを見た桐生さんがヒュウと口笛を吹いた。


「潔いですね」


「これ以上長引かせてもなまえが苦しむだけです」


「分かってるじゃないですか」


桐生さんが指を鳴らすと、私の斬魄刀は普通の刀へと戻った。


「直接斬られた方がいいでしょう?」


「…………」


やだ、やだよ…。


「いきなさい、なまえ」


ゆっくりと刀を構える。


「っ、お父さん!!!」


「……………」


一瞬だった。目を瞑る余裕などなかった。お父さんの懐へと駆け出していき、握っていた刀が身体に吸い込まれていく。


小さな呻き声、刀から伝う生暖かいモノ、落ちてくる雫。それはお父さんの涙と血だった。


「お、父さん…?」


「…っ、なまえ…」


ぎゅっと抱き締められる。そのせいで、途中まで止まっていた斬魄刀が柄まで飲み込まれた。


「も、大丈夫…ですよ」


「でも、お父さん…血が…」


「こ、なの…へでもありません」


弱々しく微笑むお父さんに、私は離れようと動かされる。しかし大人には勝てない。


「なまえ、大丈夫。貴女は何も、心配しないでいいんですっ」


強く強く抱かれる。それに私は涙した。


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