「はい、ジンジャーエールとフォンダンショコラ」
コトッとテーブルに置かれた、いつものメニュー。
私は驚いてオーナーさんを見た。
「いいんですか?」
「もちろん」
「あ、でもお金…」
「気にしなくていいから。これは久しぶりに会えたなまえちゃんへのプレゼント」
ニッコリと笑うオーナーさんに頭を下げる。
いただきます、と言ってジンジャーエールとフォンダンショコラを口に運んだ。
シュワシュワと弾ける炭酸とショコラの甘さがスーッと身体に染み入る。
「おいしい?」
「はい!もちろん!」
「よかった」
オーナーさんは隣のイスを引いてそこに腰を下ろす。
そしてテーブルに頬杖をついてじっと私が食べている様を見てきた。
「あ、あの…オーナーさん?」
どうしたんですか、と声をかける前にオーナーさんは口を開いた。
「なまえちゃんってさ、拓海のことが好きなんだよね」
「…やっぱり、分かりやすいですか?」
「まぁね。なんたって皆より恋愛経験豊富ですから」
確かにオーナーさんはかっこいい。
だからきっと色んな恋を経験したんだなと思う。
「俺はなまえちゃんの味方だから、拓海に何かされたら言いな?」
「あ…はい」
そう言ったオーナーさんはとても優しい表情を浮かべた。
「それにしても神様っているんだな」
「神様?」
「うん。だって拓海が自分の気持ちに気付…」
「オーナー!!!」
バンッとドアを開けて入ってきた拓海に驚いた。
その顔には焦りが滲んでいた。
「それは言っちゃダメだって!!!」
「いいだろー。どうせ言うんだし」
「良くない!!!」
2人が何の話をしているか分からないので、私はただ成り行きを見守るしかない。
オーナーさん、なんだか楽しそう。
「それより、片付けは終わったか?」
「終わりましたっ!!」
「よし、じゃあもういいぞー」
それを聞いた拓海は『はい』と返事をして自分のロッカーを開けた。
そしてそこから荷物を取り出すと、私に視線を移した。
「帰ろう」
「え、着替えは!!?」
「このまま帰る」
拓海はちらっとオーナーさんを見る。
「これ以上ここにいたら、あることないこと言われそうだし」
「ひでーな、言っても“あること”だけだって」
「それもダメですって」
はぁ、と短く息を吐いて拓海は私の手を取った。
「お先に失礼します」
「あ、ごちそうさまでした!」
「また遊びにおいでね」
ひらひらと手を振るオーナーさんに頭を下げ、私達は事務所を後にした。
「これで暫くは拓海で遊べるな」
喉をクッと鳴らして含み笑いをするオーナーさんを私達は知る由もない。
end