「野中浩平、美術部に所属。彼の作品は数々の賞を受賞してて美大の推薦は確実」

隣でがっちゃんがメモを見ながらすらすらと喋る。

「人柄も良く、男女共に人気がある。成績も常に学年で上位。あー、拓海くんとは違うね」

「うるさい」

というか頼んでもいないのにいつの間に彼はそんな情報を集めたのだろうか。
イライラが余計に募ってくる。

「どっちかって言うと蓮タイプだ。顔もいいし。あ、ちなみになまえちゃんファンクラブには入ってないよ」

「ってか何でそんなに詳しいのさ」

「中学も一緒だから」

友達、とまではいかないけど知っているそうだ。

なんだかイライラする。

「入学式でなまえちゃんに一目惚れしたんだって」

「へぇ」

確かにあの日はほとんどの男子の視線はなまえに向けられた。
それをアイツは気付かないで『な、なんかみんな私を見てるけど…顔に何か付いてる!!?』とか言っていた。

「まぁ、野中の普段の顔は表向きなんだけどね」

「はっ?」

「裏では女の子をぞんざいに扱って終いにはボロ雑巾のようにぽいっと」

「んなっ!!?」

ということはあれか、次のターゲットがなまえというわけか。
じゃあ今度の土曜日、なまえは…。

嫌な想像が頭をよぎる。

「って、漫画じゃあるまいし。そんなことあるわけないじゃん」

「…………………」

立ち上がってがっちゃんのこめかみを、某アニメの母親みたいにグリグリ攻撃をする。
彼は『いたたたっ!』と大声をあげてじたばたと暴れた。

「うぅ、冗談だったのに…」

「今のは学が悪いよ」

裕くんががっちゃんの頭に手を置いてあやしていた。

これぐらいの仕返しは当たり前だ、うん。

「…で、どうするの?」

「なにが?」

イスに座り直して頬杖をつく。
がっちゃんの声がワントーン下がった。

「今度の土曜日の、なまえちゃんのデート」

「…………」

窓から入ってくる風が頬を撫でた。

「拓海くんはさ、なまえちゃんの事、どう思ってるの?」

「どうってそんなの」

「“幼なじみ”?」

俺より一瞬早くがっちゃんが言った。
裕くんはそんな俺らをただ黙って見ている。

「なまえちゃんは幼なじみだから、女の子として見れない?」

「…………」

見れない、というか今までそんな風に考えた事がない。

なまえは俺の幼なじみで、俺はなまえの幼なじみだから。

「見方を変えればいいんじゃない?」

不意に裕くんが口を開いた。

「幼なじみとしてじゃなくて、1人の女の子としてなまえちゃんを見てみなよ」

「うん。そうすれば自分の曖昧な気持ちに整理がつくんじゃない?」

彼らはにっこりと微笑んだ。

見方を、変える…。

「そういえば蓮はどこに行ったの?」

がっちゃんは首を傾げて裕くんを見上げる。
そういえば昼休みになったらどこかに行ってしまった。

「あー、蓮なら」

ちらりと俺を見てから裕くんが静かに口を開いた。

「友達と図書室に行ったよ」





*****





「蓮、ここ分かんない」

「どこ?」

指差している彼女の教科書を覗き込む。

「あぁ、これは…」

来週から始まるテストのために家庭教師をしてほしい、と頼まれたのは昨日の事。
人に教えるのも自分のためになるし、何よりなまえのためだから。

「…ってなるわけ」

「なぁるほどー!」

「それにしてもテスト期間を忘れるなんてなまえらしいね」

「それ言われると痛いなぁ…」

ははっと苦笑する彼女は、あの日より幾分かは元気になったみたいだ。
だからかもしれない。自然と笑みがこぼれたのは。

「蓮に笑われた!」

「ほら、次の問題をやって」

「うー」

はぐらかして教科書を指差すと、なまえは口を尖らせてイスに座り直した。

「えっと、次は…」

顔にかかる髪を耳にかける。
その仕草がなんだか色っぽくて目を背ける。

「英訳…って蓮?顔赤いけどどうしたの?」

「ん、なんでもない」

コホンと咳をして落ち着かせる。

改めてなまえは可愛いと思う。
それなのに安堂はなぜ気付かないんだろう。
ちゃんとした、いや、それ以上の“女の子”なのに。

「…ありがとうね」

「ん?」

小さななまえの声は俺にだけ聞こえた。

「拓海の事で1人じゃ勉強なんて出来ないから」

「…うん」

「あれから数日経つけど、やっぱりまだ考えちゃうの。今頃拓海は何してるのかな、ちゃんと宿題やってるかなって」

それは習慣だったんだ。
なまえにとって大好きな人を想う事が。

毎日気づけば安堂を想って馳せる。

いまでもそれは抜けないのだろう。

「諦めなきゃいけないのにね」

そう言って微笑んだ彼女の笑顔は、すごく寂しそうだった。



end



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