「どう?」
文化祭でうちのクラスがやる女装カフェでお菓子を出すため、試作品を苑に試食してもらっている。
「んー、もっと甘い方が女の子はいいかな」
「そっか。じゃあこれは甘くしてっと…次はマカロン!」
「…ん、これはいいかも」
「やった!」
どれは甘すぎるとか、どれは甘さ控えめとか、苑から貰った貴重な意見をノートにまとめていると、近くでパシャッという音が聞こえてきた。振り返ってみるとめぐちゃんが携帯のカメラで私達を撮影していて。不思議そうに彼女を見ればめぐちゃんは怪しい笑みを浮かべた。
「何してるの?」
「いや、最近お小遣いが足りなくて」
それのどこと関係してるのだろう。
いまいちピンと来ないので苑を見ると、同じように首を捻っていた。
「あんた達の写真って高く売れるのよー。特にツーショットは倍よ、倍」
「は!?」
「高く売れるって…私達の写真を売ってたの!?」
「いえす!一応新聞部所属ですからね」
眩しいほどの笑顔を向けてくるめぐちゃんに呆れて何も言えない。
「あ、だからたまに男子が苑の隠し撮り写真を持ってたりするのか」
「そういうこと」
「お、おい!名前の写真も売ってるのか!?」
「名前単体では売ってないから安心して」
「そういう問題じゃないだろ!」
とりあえず私はめぐちゃんから携帯を取り上げてデータを消しました。
「名前ごめんってー」
両手を合わせて謝ってくるめぐちゃんを無視して、目の前のケーキを口に運ぶ。
「本当に名前単体では売ってないよ?誰かとのツーショットとか、大勢の中に紛れてる奴とか」
「…そういう問題じゃないってば。第一、めぐちゃんバイトやってるじゃん。お小遣いとかいらないんじゃ…」
「バイトをしても足りなくなるんです」
それに欲しい物があって、と乙女の顔をするめぐちゃんにピンと来た。
「中野くんの誕生日?」
「えへへー」
中野くんとはめぐちゃんの彼氏。高校は違うが何度か遊んだことはある。
「名前も早く彼氏作りなよ」
「うーん、今はいらないかな」
「なんで?」
「みんなと遊んでる方が楽しいもん」
それに…と続けようとしてやめる。目を閉じて思い出すのはあの日々。
忘れない、忘れたくない思い出だ。
「名前?」
「ん、ごめん。さて、女装カフェで出すお菓子研究の続きしよ」
目の前にあるケーキを口に運んでゴクリと飲み込んだ。