中庭に着き、きょろきょろと辺りを見渡してみるがそれらしき人はまだ見当たらない。
ここでいいんだよね?
中庭のある大きな木。そこに寄りかかり、相手を待つことにした。
そういえばこの木。
寄りかかりながら見上げる。確かこの木は入学式の時…。
「あの、すみません!」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこには1人の男子が立っていた。
「呼び出しておいて遅れるなんて…ほんとにすみません!」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
何度も頭を下げる彼がおかしくてつい笑ってしまう。
「あの、実は…」
ジリ、と近寄ってくる男子に私は何となく身の危険を感じて後ろに足を出す。
「僕…僕…」
「あ、あの…」
「……っ、篠原さんが好きなんです!」
「………え?」
予想外の言葉に目が丸くなる。
篠原さん?
篠原ってまさか…。
「苑のこと?」
「はいっ!」
きらきらと目を輝かせ、彼は大きく頷く。
…っと、まさかこの人、苑が女の子だと思ってる?
「スラリと伸びた手足、艶やかな髪、そしてあの愛くるしい笑顔!一目見た瞬間、僕の心は彼女に奪われてしまいました!」
「へ、へぇ…」
「そこで一番仲がいい名字さんに篠原さんのことを色々とお聞きしたいのです!」
彼の目は真剣で、苑が男の子だと言うのが躊躇われた。
「わ、私でよければ…」
「ありがとうございます!」
がしっと手を掴まれ、激しく上下に振られる。
困ったことになってしまった…。
笑顔の彼とは反対に、私は眉を顰めて笑うしかなかった。