見た目に騙された



「かわいいー!!!」

さくちゃんが働いてる探偵事務所にノートを届けにやって来た。するとそこには鬣がないライオンみたいなぬいぐるみと、ペンギンのような、しかし羽の付いているぬいぐるみがソファーに向かい合うようにして座っていた。

「なまえちゃん見えるの!!?」

「ん?ぬいぐるみが?見えるに決まってるよー」

「いや、普通は見えないんだけどね…しかもぬいぐるみじゃないし…」

「さくちゃん、何か言った?」

「いいいいや!何も!」

慌てたように手と顔を振るさくちゃん。なんだろうと思ったけど気にしないことにして、近くにあるペンギンっぽいぬいぐるみを抱き上げた。

「わー!生きてるみたいに暖かいね!」

「あ、はは〜…まぁ生きてるしね…」

またさくちゃんがぼそりと呟いた。しかし私には聞き取れない。

「可愛い可愛い!!」

ペンギンさんをひっくり返してみたりぎゅーっと抱き付いてみたり。とにかく可愛い!

「あー、ほんと可愛いなぁ…」

そしてちらりとライオンみたいなぬいぐるみを見た。すると何故か羨望の眼差しを向けられている、ような気がする。

なんかうるうるしてる…?

「そっちのライオンさんも抱っこ…」

「だめ!それはだめ!なまえちゃんの貞操が危ないから!」

「貞操?」

なんで?と聞き返そうとする前にさくちゃんはそのぬいぐるみを投げ捨てた。

一瞬『ぎゃっ』と聞こえた気がするけど気のせいだろう。

「ねぇさくちゃん、このぬいぐるみどこで売ってるの?」

「ま、魔界…?」

「マカイ?変な名前のお店だね」

聞いたことないけど、きっとどこかにあるのだろう。とりあえず行きたい…!

「いいなー、私もペンギンのぬいぐるみが欲しいなー」

その言葉を発した時、抱いていたぬいぐるみがピクリと反応した気がした。

不思議に思って視線の高さまで持ち上げるのと、そのぬいぐるみが動き出したのはほぼ同時で。

「誰がペンギンですか!!!」

「えっ?」

危うくぬいぐるみを落としてしまうところだった。

「私は高貴なハエですよ!あんな可愛さの欠片もない飛べない鳥なんかと一緒にしないで頂きたい!」

「ダ、ダメですよベルゼブブさん!喋ったりしたらなまえちゃんが…」

「き…」

「「き?」」

「きゃああああああっ!!!!」

べしっと床に叩き付けてさくちゃんの後ろに隠れる。ぬいぐるみだと思っていたモノは『ぐふっ』と声をあげて床でピクピクと動いていた。

「ささささくちゃん!動いた喋ったハエだった!」

「う、うん。とりあえず落ち着いてもらえる…?」

「むむむむりっ!だってこんなありえないこと…」

「このくそアマぁ…」

顔面を真っ赤にしてハエさんが起き上がる。そして私をキッと睨んできた。

「強制排便させんぞ!!!」

「いやあああっ!ハエいやあああっ!」

「ぐふぉっ」

近くにあった灰皿を思いっきりハエさんにぶつけてその場を立ち去った。

そしてハエさんとライオンみたいなアレが魔界からきた悪魔だと知るのは次の日でした。



見た目に騙された

(あの時はすみませんでした)
(ふん、今日から貴女は私の下僕です。逆らったりしたら強制排便を…)
(逆らいません!!!)

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