「わぁ!トロピカルランドだぁ!」

船内から外を見ている子供達は初めて乗る飛行船にはしゃいでいた。

「お城が小さく見えますね!」

「おもちゃの遊園地みたい!」

ね、なまえお姉ちゃん!と同意を求められ、私は微笑んで頷いた。

ほんと、子供の発想は素敵だ。

「んー!絶景絶景!」

「お父さん、すごい景色だよ!」

蘭ちゃんは後ろのイスに座っている毛利さんに振り返る。しかし彼は身体を小刻みに震わせていた。

「ねー、こっち来て見れば?」

「うるせー!今考え事をしてんだ!」

そう言って毛利さんはまた身体を震わせた。

「もう…」

「そういえば毛利くんは高いところが苦手じゃったな」

「そ、そんなんじゃねぇ!!!」

いやいや、説得力ないですって。

後ろで繰り広げられている会話に私はクスッと笑みをこぼした。

「ねぇ、キッドさんはいつもこんな景色見てるのかなぁ?」

そう言った歩美ちゃんに視線を向ける。

「羨ましいですね!ね、なまえさん!」

「ふふ、そうですね。キッドさんが羨ましいです」

ハングライダーで風を切るように飛ぶのは気持ちいい。なんて思っていると新一くんにニッと笑われたので私はみんなに気付かれないように睨んでやった。

「でもよ、キッド本当に来るのか?」

「来るわよ。次郎吉おじさまのところにちゃーんと返事が来たんだから」

園子は携帯を取り出して操作をしたあと、元太くんに見せた。

「ほら」

「へのご…んでおけします?」

「はぁ?あんたね、平仮名だけ読んでどーすんのよ」

「仕方ないですよ、元太くんはまだ小学生なんですから。難しい漢字は読めませんよね?」

歩美ちゃんの隣から元太くんの後ろまで移動し、彼の頭を撫でてやる。すると元太くんは『そうだそうだ!』と口を尖らせた。

「ったく…いい?“飛行船へのご招待、喜んでお受けします。但し、72歳のご高齢の貴方に6時間も緊張状態を強いるのは忍びなく、夕方、飛行船が大阪市上空に入ってからいただきに参ります。それまでは存分に遊覧飛行をお楽しみ下さい。怪盗キッド”」

その文面は相変わらずだった。

なーにが“いただきに参ります”よ。もうすでに船内にいるくせに。

「おい、なまえ」

小声で名前を呼ばれ、振り向くと新一くんが手招きをしていた。私は『なに?』と口パクで言いながら耳を近づける。

「お前、本当に今回はキッドと協力しねーんだな?」

「だから、この前も言ったでしょ?ビッグジュエルはキッドの獲物なの。私は興味ない」

それを聞いて安心したのか、新一くんは短く息を吐いた。

「あたしのこともいただきに来てくれないかしらー!!キッド様ぁ!!」

黄色い声をあげた園子にビクリとする。

いきなり大声を出さないでほしい、うん。

「前から思ってたけど」

新一くんの隣にいた哀ちゃんがそっと口を開く。

「彼女、かなりユニークな性格ね」

「ふっ、まぁな」

「子供の頃から変わってないよ」

昔からかっこいい男の子には目がないから、と言うと哀ちゃんは可笑しそうに笑った。

「ところで、今回の客はワシらだけなのかな?」

苦笑していた博士が聞くと、トリップしていた園子は我に返り『あぁ』と辺りを見渡す。

「確か藤岡さんってルポライターの人が……あ、あの人」

彼女につられてそちらをみると、ゆっくりと男の人が歩いてきたのが分かった。

「次郎吉おじさまとキッドの対決を是非書かせて欲しいって、自分から売り込んできたのよ」

ルポライターさんか…ま、今回もキッドが勝つんだろうけど。しかし鈴木次郎吉のことだ。何か罠を仕掛けているに違いない。

つい仕事のくせで余計な詮索をしてしまう。私は頭を振ってそれ以上の詮索をやめた。

「ほかには…」

「あのー、すいません」

園子の言葉尻に聞こえた声に頭だけ捻ると、座っている毛利さんにピンクのポロシャツを着た、少しふくよかな男性が話しかけていた。手には名刺を持っている。

「毛利小五郎さんでいらっしゃいますね?」

「あ?」

毛利さんはだるそうに顔をあげる。

「初めまして。日売テレビディレクターの水川と申します」

「あぁ…」

差し出された名刺を毛利さんは受け取った。

「それから、レポーターの西谷かすみとカメラマンの石本順平です」

水川さんの少し後ろにいる2人が頭を下げる。カメラマンというだけあって石本さんの手にはハンディカムがあった。

「よろしくお願いします」

「あぁ、どうも」

「今回、鈴木氏とキッドの対決をうちが独占中継することになりまして」

水川さんは独占中継出来るのが嬉しいのか、声が少し弾んでいた。

「あぁ、確か夕方から特番を」

「はい。本当はいつかの空中歩行の時のように局をあげて放送したかったんですが…生憎、時期が悪くて」

「時期?あぁ、赤いシャム猫か」

「えぇ、7日以内に次の行動を起こすと予告があってから局では緊急事態に備えています」

彼らから視線は外さず、私は小さく声を漏らした。

「予告通りなら今日が期限ね」

「あぁ」

新一くんと哀ちゃんは無言で頷く。

「恐らく何か仕掛けるんじゃ…」

「はっ、おかげでワシの自伝映画用のヘリの飛行許可も降りんかったわ」

コツコツと靴を鳴らしてやってきたのは、SPに囲まれた鈴木次郎吉と相棒のルパン。ブラックではなくなまえとして会うのは久しぶりだが、なんだか萎縮してしまう。

「まったく忌々しいドラ猫共じゃ。のうルパン」

「ワン!」

そう言うわりにはずいぶん愉しそうだ。

「次郎吉おじさま」

「おぉ、園子。それになまえちゃんも」

「お久しぶりです、次郎吉様」

立ち上がり、頭を深く下げると彼は顔のシワをより一層深く刻んだ。









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