『おう、工藤。仏さん狙てた奴ら全員捕まえたで』

コナンくんの電話から漏れる服部くんの言葉に私は安堵した。あの後、おじさま達を呼んで伸びている犯人達をデッキに運んだ。彼らは今動けないように手摺に手錠がかけられている。

『もちろん住職らも全員無事や』

「分かった。ありがとう平次にーちゃん」

コナンくんの声を聞きながらぐるりとデッキを見渡す。どうやらキッドはどこかに隠れたみたいだ。

「なんでぃ、やっぱり大阪の探偵ボウズが糸引いてたのか」

「あ、ははは〜…」

糸引いてるって…ボスじゃないんだから。

私はコナンくんと共にひきつった笑みを浮かべた。

「あ、そうだ」

何かを思い出したらしいコナンくんはポケットから取り出して鈴木次郎吉に差し出した。小さな彼の手にあったのはビッグジュエル。リーダーから奪い返したものだった。

「おぉ、すまんな小童」

「それより早く蘭を病院に連れていかなきゃ!!!」

今にも泣き出しそうな園子の肩に手を置く。

「大丈夫ですよ」

「大丈夫って、だって細菌に…!」

「園子。説明致しますから、まずは蘭ちゃんを迎えに行きましょう?」

ね?と、子供を諭すような声音で園子の手を取った。




*****




「蘭姉ちゃん」

「蘭ちゃん」

明かりもつけていない暗い喫煙室。彼女は窓から外の景色を見下ろしていた。

「コナンくん!なまえちゃん!ダメ…来ちゃダメ!!!」

私達に気付いた蘭ちゃんは口を押さえて一歩下がる。それを見てコナンくんは『大丈夫だよ』と言った。

「コナンくんの言う通り、大丈夫なんですよ。何故なら感染者なんて1人も出ていないんですから」

「え…?でも発疹が…」

ゆっくりと近づいて彼女の手を握る。

「その発疹はただのかぶれですよ」

「かぶれ…?」

「はい」

「たぶん漆にかぶれただけだよ」

漆にはウルシオールというものが含まれている。そのアレルギー反応を起こす事でかぶれてしまう、と何かの本で読んだ。

「先程蘭ちゃんを此処に連れてきた方、水川さんの時と同じ方だったのではないですか?」

「う、うん」

「きっとあの人だけが彼らの中で漆に耐性があるんだ。手の爪が黒くなってたから…たぶん元漆職人か何かなんだろうね」

「つまり、犯人達は初めから細菌など盗んでいなかったんです。ただ実験室を爆破して今回のバイオテロを本当に起こったと見せ掛けただけ」

「リーダーの前でこのアンプルのふたを開けようとしたけど、リーダーは騒ぎもせずに平気な顔をしてた」

それはつまり、アンプルが偽物だという事。

まったく、ややこしい事をしてくれる。

がチャリと控え目に開いたドアから毛利さんと園子が覗いている。だから私は微笑んで頷いた。

「大丈夫か、蘭」

「…うん」

小さく頷いた彼女から手を離す。コナンくんはその後も蘭ちゃんを安心させるために色々と説明していった。この部屋の至る所に漆が吹き付けられ、それを触って発疹が出たと。

「とりあえずデッキに戻りましょう。あ、漆には触れないようにして下さいね。発疹が全身に広がってしまう…」

私が言い終わらない内にコナンくんは部屋を飛び出していった。

「おい!どうした!!?」

「コナンくん…?」

走り去る彼の背中を見ながら私達は首を捻ったのだった。









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