「優ちゃぁぁぁん!!!」

魔界でも有名なベルゼブブ一族が住むお屋敷に駆け込む。そして目の前に彼を見つけて突進した。彼は『ぐえっ』と声をあげ、私を引き離そうと頭をぐいぐい押してくる。

「な、何の用だ!」

「特に用はありません」

「じゃあ離れろ!」

「いーやー!!!」

頭を押してくる彼に負けじと腕の力を強める。

「今日こそは優ちゃんと一緒にいるの!」

「昨日も一緒にいただろう!」

「途中で喚ばれてたじゃない!!」

優ちゃんは人間と契約している。確か名前は“さくまさん”。女の人らしい。

「可愛い彼女が寂しがってるというのに放っとくの!!?」

「誰が彼女だ」

「わーたーしー!!!」

「嘘をつくな!お前は幼なじみだろう!」

ついにべりっと剥がされてしまった。口を尖らせて『優ちゃんのいけずー』と言ってみせたが彼に無視された。

ひ、ひどい…!

「って、どこか行くの?」

「これから仕事だ」

「仕事!!?」

今日も彼は人間界に行ってしまうのか。喚ばれたら否応なしに行かなくてはならないし、連れていってもらえない。

「毎日毎日、仕事仕事仕事って!私と仕事のどっちが大事なのよ!!」

「仕事」

「ひーん!即答しやがった!」

優ちゃんがそう言うの分かってたけど、少しくらい考えてくれてもいいじゃない!

「…もういい。いってらっしゃい」

肩を落としてお屋敷から出ようと踵を返す。

帰ったらやけ食いしてふて寝してやる。

「なまえ」

何を食べようか考えていると、優ちゃんに引き留められた。私はだるそうにそちらを向いて『なに?』と低い声で応えた。

「今日の仕事が終われば明日と明後日は休みにしてもらった」

「……え?」

「観たい映画があってな。予定は開けとけよ」

え、これってもしかしなくても…。

「デート…?」

「…そう思ってもいい」

ふっと笑う優ちゃんの頭上に魔方陣が描かれた。喚ばれたのだ。

「じゃあな」

「うん!いってらっしゃい!」

ぶんぶんと手が千切れるぐらい振ると、彼はまた笑った。

「こうしちゃいられない!明日の準備しないと!!」

浮き足立つ足をそのままに、私はお屋敷を飛び出した。



愛しのダーリン!

(ベルゼブブさんも優しいところがあるんですね)
(何がですか?)
(可愛い彼女のために前倒しで働いて休みをとるなんて)
(う、うるさいですよ!)