「あれ?ベルゼブブさん1人なんですか?」 講義が終わって事務所に顔を出すと、1人でちょこんとソファーに座って本を読んでいるベルゼブブさんがいた。 「あぁなまえさん。さくまさんとアザゼル君は買い物に出掛けましたよ」 「へぇ…ベルゼブブさんは何を読んでいるんですか?」 「魔界でベストセラーになった本です」 「魔界にもベストセラーなんてあるんですか!」 「えぇ、もちろん」 そう言ってベルゼブブさんはまた本に視線を落とした。邪魔をするのも悪いので荷物を静かに置いて台所に向かう。そこで紅茶を準備し、トレーごと運んで彼の前に置いた。 「ありがとうございます」 「いえいえ」 彼と同じようにカップに手を伸ばして口に運ぶ。アールグレイの香りが鼻を抜けた。 飲み終わったら帰ろう。 事務所からそう遠くない場所に私のマンションがある。と言っても最近は事務所に入り浸っているからあっちはお風呂と寝泊まりぐらいなのだが。 「…なまえさん」 帰って何をしようか考えていると、ベルゼブブさんの声が聞こえて思考を引き戻す。 「はい、なんですか?」 「なまえさんは…その…」 本から視線は外さずに口だけ動かしているベルゼブブさん。その顔はなぜかほんのり赤い。 「あ、芥辺さんの事をどう思っていますか!!?」 「芥辺さんの事…?」 いきなりなにを言われるかと思えば、まさかの芥辺さんについて。私は首を捻って口を開いた。 「どういう意味ですか?」 「で、ですから!…す、好きとか、かっこいいとか…」 モゴモゴして聞き取りずらかったが、確かに“好き”だとかなんとか言っていた。 「嫌いではないですけど、好きとまではいかないですよ?普通です」 「そ、そうですか!」 ベルゼブブさんは安心したのかほっと息を吐いた。 「では、アザゼル君はどうですか?」 「アザゼルさん?面白いんですけどセクハラが…」 「セクハラされたんですか!!?」 「い、いえ。私じゃなくてさくちゃんに、ですよ」 アザゼルさんは私にセクハラはしない。それはとてもありがたい事だけど女としての魅力がないんじゃないかと心配になってアザゼルさんに聞いたら『なまえちゃんにそないな事しよったら、べーやんに殺されてまうわ』と言われた。 意味が分からなくて聞いてみても『ワシからは言われへん』の一点張りで教えてもらえなかった。 その時の表情がニヤニヤしていて気持ち悪かったけど。 「では、サラマンダーさんは?」 「こ、怖いです」 彼はいつもさくちゃんにペッと唾を吐く。私はいつもベルゼブブさんに守られているので掛からないが。 「ルシファー君」 「傲慢な態度が嫌です。コアラ姿は好きですが」 それにしてもこの質問には意味があるのだろうか。というかいつの間にかベルゼブブさん、本読んでないし。 「そうですか…」 「ベルゼブブさん?」 「あ、今の質問は気にしないで下さい」 「…気になります」 心理テストではないだろうし…一体なんだろう。 「あ」 「どうかされました?」 本から視線を外して私を見るベルゼブブさんと目が合う。 「ベルゼブブさんは好きですよ」 「…………え?」 「ベルゼブブさんは好きです」 聞こえなかったと思いもう一度、今度は大きめの声で言うと、彼は顔をボンッと一気に赤くさせた。 「あああ貴女はいいいいきなり何を言い出すんですか!」 「え、だってベルゼブブさんの事は言ってないなと思いまして…」 「よよよ余計な気遣いはいりませんよ!!!」 そう言われても真っ赤な顔じゃ説得力ありませんよ、ベルゼブブさん。 私はあわてふためく彼を見てくすりと笑う。すると事務所のドアががチャリと開いた。 「ただいまー、ってあれ?なまえさん、いらしてたんですね」 「うん。さっき講義が終わったの」 「大学っちゅーのも大変な所やな……って、べーやんどないしたん!!?」 「アザゼル君には関係ありません!!!」 ピギィィィと威嚇するベルゼブブさんは、なんだかとても可愛らしく見えました。 真っ赤な悪魔 (な、なんやべーやん…顔、真っ赤っかやで) (ううううるさいですよ!!!) (なまえさん、何があったんですか?) (ふふっ、秘密だよ) |