「ベルゼブブさん、今日はさくちゃんと一緒にカレー作ったんですよ」

はい、と彼女は僕の前にカレーを置いた。美味しそうなにおいが立ち込める。スプーンで掬って口に運べばやっぱり美味しい。

「どうですか?」

「ふむ…まぁまぁですね」

「ふふ、ありがとうございます」

素直に『美味しい』と言えない僕の本心を読み取ったなまえさんはニッコリ微笑んだ。

「どれ…ん、めっちゃうまい!!」

「なにするんですかアザゼルくん!!」

「なにって一口貰っただけやん」

「これはなまえさんが僕のために作ってくれたカレーですよ!貴方は豚足でもしゃぶってなさい!」

ピギャーと威嚇してみせるが、アザゼルくんは食い下がる。

「なまえがべーやんのためって…さくも一緒に作ったんやないか」

「黙りなさい!あの女はどうせルーを入れただけですよ!」

「ちゃんと作りましたよ!!」

台所の奥から聞こえてくる声をガン無視してカレーを腕の中に隠す。

「これは僕のです!!鍋にあるカレーも僕のですからね!!」

「なまえー!べーやんがいじめるぅ」

「よしよし」

僕がカレーを死守している隙を狙ってアザゼルくんは彼女に抱き付いた。カレーをテーブルに置いてアザゼルくんを引き離す。

「ここは僕の特等席ですよアザゼルくん!!!」

「な、なんや今日のべーやん怖いわぁ…」

「どうしたんですか?ベルゼブブさん」

悪魔が人間に恋をするなんておかしいと思われるかもしれない。でも僕はなまえさんが好きなんだ。

それこそ初めて出会った時、僕が初めて喚ばれた時から彼女が好きだ。

だから他の誰かがなまえさんに触るのも我慢できない。なまえさんに触っていいのは僕だけなんだ。

「……なんでも…」

突然ふわっと抱き締められる。驚いて見上げると笑っているなまえさんと目が合った。

「そうでした。ここはベルゼブブさんの特等席でしたね」

「わ、分かればいいんですよ」

ふん、と鼻を鳴らしてカレーに手を伸ばし、なまえさんの膝の上で食べ始めた。

「えぇなぁ…さくがなまえちゃんみたいに優しかったらなぁ…」

「聞こえてますよアザゼルさん!」

台所から戻ってきたさくまさんはグリモアを手にしている。

「あ、さくちゃん…冗談に決まっとるやないか!さくちゃんは優しくてぇ、可愛くてぇ…きっといい嫁はんになる!」

「えい」

ピトッとグリモアをアザゼルくんの身体に付けるさくまさん。彼の身体にはフォークが突き刺さった。『うぎゃあああああ』というアザゼルくんの断末魔を聞きながらカレーを口に運んだ。

やはり今日のカレーは上手い。



大好きな人と大好物

(なまえさん、おかわりをお願いできますか?)
(もちろんですよ)