▼ 5 始まりを告げる
「ユウリ、開けてもいいか?」
声の主はルーネスだった。彼、アルクゥ、ユウリの部屋は横並びになっている。一人ひとつ与えられている部屋は、それぞれの個性が存分に出ていて面白い。
「大丈夫、今開けるね」
「準備終わった?」
「うん、武器になりそうな物は無かったから、防具だけ。と言っても、服くらいしか無いんだけどね」
少し困ったように微笑(わら)いながら、着衣に視線を落とした。丈夫な生地で出来ているこの服は、少し魔力も込められているようで、多少の衝撃なら耐える事が出来る。
尤も、鋭い牙や爪などを持つ猛獣などには切り裂かれてしまうかもしれないけれど。それでも普段の服よりはよっぽど耐久性があるのだ。
「まあ、そうだよな。ユウリは女の子だし、そんな物持っていなくて当然だよな」
後ろ手に扉を閉めながら、ルーネスも微笑った。扉を開けた時から気になっていたが、彼が手に持っているものは、どうやら杖のようだ。自身の腰には剣が二振り下げられている。
どこから手に入れたのか、大方予想はつく。北にある、クリスタルの声を聞いた洞窟。時折そこを訪れては戦利品を持ち帰ってきていたのだ。
魔物が蔓延る洞窟に単身赴き、腕試しと称しながら魔物を倒し、尚且つお宝を持って帰って来るとは、本当に肝が据わっている。
そこがルーネスの尊敬出来る所であり、心配の種でもあったのだが、その度胸が、装備品が、今この時、必要になっている。
改めて、ルーネスという存在は頼りになるのだと、ユウリは思った。同時に、自分は何かの役に立つことが出来るのだろうか、とも。
「この杖、あの洞窟で見つけたんだ。結構丈夫そうだし、何も持たないよりは良いかなと思ったんだけど」
軽くて扱いやすそうだし、ユウリにどうかなと思って。そう差し出された杖を手に取ると、ユウリの身の丈ほど、とまではいかないが、肩あたりまで長さがあった。
しかし材質は何で出来ているのか、大きさに反して重量はそこまででもない。成る程確かに、これなら非力なユウリにも扱えそうだ。
手に何か持っていた方が、いざという時便利なのは間違いない。魔物の攻撃を弾いたり、受け止めたりと、躱すだけではない策が増える。
何よりも、ユウリの事を考えてくれていた事がとても嬉しく感じた。
「ありがとう、ルーネス!」
手渡された杖を胸に抱き締め満面の笑みを浮かべるユウリに、ルーネスは少し照れくさそうに笑った。
ふいに、伸ばされた手。
杖を壁に立て掛け、ゆっくりと耳の横を通り過ぎたかと思ったら、後頭部に添えられた手のひらに軽く力が込められる。
ふわり、優しく引き寄せられたユウリは、そのままルーネスの腕に包まれた。
すごく安心する。大好きな、ルーネスの匂い。
「大丈夫。ユウリは、オレが絶対に守るから」
囁かれた声と共に、少しだけユウリを抱きしめる腕に力が込められた。先程脳裏を過ぎった不安など、全てをかき消すかのように。
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