▼ 2 語り掛ける声
───闇の大地より訪れし者よ
おまえ達は希望を持つ者として選ばれたのだ
「えっ…?」
「何、これ…どこから…?」
───今 世界は闇に包まれようとしている
このままでは光が失われ すべてのバランスが崩れてしまう…
「これ…私達がさっき話してた事…?」
「そう、みたいだね…これは…」
───おまえ達には運命を共にする仲間がいる
まずはその者たちと出会うのだ
その時 私はおまえ達に
最後の光を 希望の啓示を与えよう
さあ 旅立つのだ…!
「旅立つ?運命を、共に…?」
「一体…なんなんだ、今のは…」
「…私達以外の人には、聞こえていなかったみたいだね」
ぐるり、辺りを見渡してみても、別段変わった様子は見受けられない。
いつものように遊んでいる子供達、談笑している村人。彼らは気付いていないというより、何もなかったという方が正しいのだろう。
心に直接語りかけてきた不思議な声は力強い響きを持っていて、そしてどこか暖かだった。
どうしろと、言うのだろうか。聞こえた先程の言葉を反芻してみるが、理解出来ない事だらけだ。
声はどこから聞こえてきたのか、誰が語りかけてきたのか、旅立てと言っていたが一体誰と、どこへ向かえばいいのか、何も分からない。
分からない事だらけなのだ。そもそも本当に、旅立たなければならないのだろうか。
「ねえ、アルクゥ。さっきのは、私達に言っていた、んだよね?」
「うん…信じられないけど、他の人には聞こえていない所を見ると、間違いないだろうね」
「どうしよう、どうしたらいいのかな…?私、全然分からなくて…」
「僕だって、全然分からないよ…何がどうなっているのか…さっきのは何だったんだ、誰か説明してよ…!」
突然の出来事に、思考が追い付かない。
日常会話として話していた事が現実に起こり得る可能性を秘めていて、それを防ぐために何かをしなければならないのだろう。ここまでは理解が出来たのだが。
「…とりあえず、一度家に戻ろう。どれかの本に、何か分かる事が書いてあるかもしれない」
ここでこうして話し合いをしていても始まらない。と腰を上げたアルクゥに続き、ユウリも立ち上がった。
ふらり、よろけた足を見ると、小刻みに震えていた。
怖いのだ。何が起こっているのか分からない恐怖と、これからの事を考えると先は真っ白で、何も見えない。
よろけた際に手を貸してくれたアルクゥに礼を言い、一歩踏み出した。考えのまとまらない頭のまま帰路につく。
「アルクゥ!ユウリ!」
村の入口に差し掛かったところで、全力で駆けてきたのだろうか、息を切らせたルーネスと鉢合わせた。
瞬間、安堵する。ルーネスが無事でいてくれた事も勿論そうなのだが、 それだけではない何か。
ユウリは昔から、ルーネスといると安心感を覚えられる。ルーネスが一緒ならば、恐怖や不安に思う事など何も無いのではないかと感じる程に。
無論、アルクゥの事もとても信頼している。ベクトルが違うだけで、二人共、ユウリにとってとても大切な人だという事は変わりない。
「ルーネス!どこに行っていたの?」
「村の北に洞窟を見つけて、中を探索していたんだ。そしたら穴に落っこちて…いや、そんな事はどうでもいいか、それより大変なんだ!洞窟の奥でクリスタルを見つけてさ!」
「クリスタルって、あの本に出てくる!?」
「ああ、そのクリスタルに、光とか闇とか、選ばれたとか、旅立てとか言われてさ、」
「ちょっと待って!それ…僕達にも聞こえてきたよ!」
「本当か!?」
「うん、どこから聞こえているのか、誰が話していているのか、全然何も分からなくて」
「だから一度家に戻って、落ち着いて話そうって事になったの。まさか声の正体がクリスタルだったなんて…信じられない…」
「そうだったのか…二人にも聞こえていたってことは…」
「僕達みんな…クリスタルが言っていた、選ばれし者っていうこと…?」
「そうなるよな…とにかくじっちゃんにこの事を報告しようと思う。何か知ってるかもしれないからな」
「そうだね、そうしよう」
三人いる村の長老の内の一人、トパパはとても物知りだ。それこそ聞けば何でも返ってくる程の豊富な知識で、その口から語られるお伽噺は子供心にとてもわくわくしたものだ。
そんな長老と母親代わりのニーナを育ての親として育ってきた三人。それぞれ感受性豊かに、のびのびと育ってきた。
「おおルーネスよ、長老達が探しておったぞ」
声を掛けられたのは家の前。長老の命で三人を探していたのだろうか、焦った様子で手招きしている。
「丁度良かった、オレも聞きたいことがあったんだ。奥にいるよな?」
「うむ、なにやら神妙な顔付きをしておったが…」
「わかった、急ぐよ。ありがとな」
もしかしたら、何かに感づいているのかもしれない。そう思いつつも確信は持てないまま、三人は足早にトパパの元へと向かった。
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