FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 26 エンタープライズ海を行く

   バイキングのアジトから外海に出て、陸沿いを南下するとトックルの村がある。それを教えてくれた海の男の顔は溌剌(はつらつ)と生気を取り戻していた。

   ネプト竜が眠りについた事は、すぐに分かったようだ。荒れていた海が静まり、元の姿に戻ったと喜んでいる彼等を見ると、こちらまで嬉しくなってくる。


「それにしても、皆が光の戦士だったなんて…よくわかんないけどカッコいいなぁ。なあ、俺も光の戦士に加えてくれよ!」

「あなたはあなた自身がやるべき事を思い出すんじゃなかったの?」

「う〜ん…なんだか体中の血がたぎるような不思議な気がしたんだけどなぁ…気のせいか…」


   デッシュとレフィアのほのぼのしいやりとりを交えながら、それぞれが初めての船旅を味わっていた。舵の取り方や帆の張り方、錨の下ろし方、基本的な扱い方は一通り教えてもらったのだが、これが中々の重労働。

   風を読む勘や波の様子など、周囲を見ていなければならない事もある。一応、舵取りは男性陣が交代で務めようという事にはなっているが、イングズが担当を申し出てくれたので、基本はそれに甘える形になりそうではある。


「僕にも手伝える事はありますか?」

「では魔物が襲ってこないか、辺りを注意して見ていてくれるか?」

「分かりました!」


   アルクゥは危機察知能力に優れている。それを見抜いているイングズは、迷う事なく見張りをお願いした。こうやって仲間との信頼関係が次々と生まれていくのは、なんだかとても嬉しく感じる。

   ほんの数日前に、出会ったばかりなのに。まるで以前から一緒に居たかのような感覚さえしてくる。なんとも不思議なものだ。


「ねえルーネス、見て、きらきらしていてすごく綺麗」


   海面に反射する陽の光を眩しそうに眺めながら、ユウリは潮風にさらわれる髪を押さえた。航跡が消えてゆくのを見ていると、確実に進んでいるのだなと実感できる。

   時折跳ねているのはなんという魚だろうか。澄んだ深い碧からは群れで泳ぐ姿も確認できた。


「船って結構スピード出るんだな。海の上だからよく分からなかったけど」

「ねー。気持ち良いなぁ」

「飛空艇とどっちが気に入った?」

「うーん、飛空艇も良いけど、船も素敵。旅してるなあって思えるね」


   楽しそうに笑うユウリに、つられてルーネスも微笑んだ。村にいたら経験できなかった事を、この短い期間にもう何度も体験してきた。

   飛空艇も、船も。どちらかと言わなくても山側の村で暮らしていた彼等には、きっかけが訪れなければまるで縁がなかった事だろう。

   新鮮な出来事を経験できるのは、重要な旅の途中だと分かっていても、正直言ってわくわくする部分がある。きっとそれは皆同じだと思う。


「…あのね、ルーネス」

「ん?」


   遠くの水平線を眺めていたユウリは言いながら身体の向きを変え、ルーネスの右手を取った。向かい合う形になり、自然と距離が近くなる。


「飛空艇で、私の事を守るって、言ってくれたじゃない?あの言葉、本当にすっごく嬉しかったの。だから…ありがとう、これからもよろしくね」


   少し頬を染め、照れたように微笑いながら放たれたそれからは、とても真っ直ぐな好意が伝わってきて。改めて言われると───結構、強烈だ。


「…今それ言う?」


   まったく、煽っているのかと思われても言い訳出来ないぞ、これは。ルーネスはそう思いながら、握られていない方の手で、不意打ちに照れてしまった顔を覆った。


「えっ、だめだった!?」

「いや、そうじゃなくてさ…」


   本当に、ユウリには適わないな。ちらりと軽く周囲を見渡してみると、幸いなことに、今いる場所は皆からちょうど死角になっている。

   ならば、大丈夫か。握り返した手を少し強めにくんと引き、こちらに傾いたユウリの身体をそのまま抱き寄せた。


「る、ルーネス、皆いるよ!?」

「大丈夫。見えてないから」


   頭と腰に回した腕に力を込め、ユウリの柔らかな髪に顔を埋めた。焦っていた彼女も死角になっている事に気付いたのだろう、ルーネスにきゅっと抱きつくと、胸元に頬をすり寄せる。

   密着した箇所から伝わる温もりが、潮風に冷やされた身体に心地好い。無意識だろうか、隙間をなくしたいと言うように、お互いが腕に込める力を強くした。

   特にいけない事をしているわけではない。ただ抱き合っているだけのこと。けれど誰かに見られるのは、やはり恥ずかしく感じるものだ。

   確かに、ただの幼なじみだったらここまではしないだろうな。もっと大っぴらに行動しているだろう。デッシュに言われた事を思い出し、二人の纏う空気がどこか違うというのも納得できる気がした。

   恋人にするような発言、行動、約束。向けている感情も、その全てが幼なじみだからの一言では到底片付かないものばかりだ。

   けれど、これでも構わない。空気が違うのが事実だろうが、温もりと安心、愛情を、確かに感じる事が出来るのだから。


「ユウリ」

「うん?」

「顔、上げて」


   言われるがままに顔を上げると、優しく微笑むアメジスト色をした瞳と視線が交わる。唇に触れた彼の指がなぞるように動かされ、ふるりと身体が震えた。

   何を、期待してしまっているのか。死角になっているとはいえ、いつ誰が声を掛けに来るか分からない。なのに、今。してほしいと、思ってしまう。

   物欲しそうな表情をしてしまっているのが自分で分かる。それがたまらなく恥ずかしい。ルーネスも察したのだろう、傾き掛けた夕陽に照らされた口元に浮かぶ笑みが深くなった。

   自分だけではなく、相手も同じ事を考えているのならば、と。そっと顔を近付け、お互いの吐息が掛かる距離まで縮まった。唇が触れ合うまで、ほんの数センチ


「なあルーネス、そう言えば、」


   …の所で、お約束のように邪魔が入ってしまった。

   瞬間、弾かれたように身体を離し、何事も無かったかのように橙色へ景観を変えた海面へ視線を移すも、誤魔化すには少々強引すぎたのか。ひょいと現れ声を掛けてきた張本人…デッシュには通じなかったようで。


「あー…悪い、なんか…邪魔したよな…?」


   物凄く気まずそうに頭を掻きながら、焦りを含んだ表情で二人を交互に見やった後。つい、と視線を逸らされた。


「い、いや、別に…」

「な、なん、なんにもしてないよ!本当だよ!」

「そんな赤い顔で言われてもなあ…さすがに無理があるな」

「………ごめんなさい」

「まあ、なんだ、俺の事は気にしないで、続きやっても良いんだぞ?」

「馬鹿かおまえ…出来るわけないだろ…」

「ははは、そりゃ残念。安心しろ、誰にも言わないから」

「お、お願いします…」


   半にやけで言われるものだから、恥ずかしくてたまらない。顔から火が出そうだ。

   皆が近くにいる場所でしようとしたのがいけないのだ。誰にも邪魔されない、例えば船内に各々あてがわれた、どちらかの部屋であれば。


「急ぎの用でもないし、話は後でするわ。とりあえず気持ち、落ち着かせてからあっちに来いよ。もうすぐ日も暮れるしな」

「分かった、そうするよ」


   コートを翻して去っていくデッシュの後ろ姿を見送る二人の間には、なんともいえない沈黙が落ちていた。

   未遂とはいえ、誰かに見られてしまった羞恥で潤む瞳をそのままに、自分より背の高いルーネスに視線を戻す。正直その姿にもぐっとくるものがあるのだが。

   ここではさすがにこれ以上は出来ないな。そう思ったルーネスは、ユウリの頭をぽんぽんと数度撫でて。


「…続き、あとでしようか?」


   苦笑の入り混じった声で発せられた言葉に、ユウリの顔が更に熱を持った。頬の赤みが引くのには少々時間が掛かりそうだ。




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