FINAL FANTASY V | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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▼ 24 纏う雰囲気

   ───ルーネス、お願いがあるの!

   この状況で!?取り敢えず言ってみて!

   このまま離さないでほしい!

   分かった!むしろ最初からそのつもり離れるのはオレが怖い!

   ありがとう!それなら私、出来る気がする!

   何を、と言うか上手く着地出来なかったらごめん!

   大丈夫、みんなも安心して!私がなんとかするから!





   迫り来る地面、そこに向けて放たれたひとつの魔法は爆風を起こし、上方向に強烈な風圧が舞い上がった。

   エアロの魔法。本来は風の刃で対象を切り刻む効果を持つ。しかしユウリは考えた。封印の洞窟で魔人と対峙した時、サスーン城の姫は風の力を利用して、アルクゥの放つ冷気魔法を巻き上げバリアのように纏わせた。

   その使い方を応用し、落下先の地面へ向けて刃ではなく風だけを巻き起こせば、着地の衝撃を和らげる事が出来るのではないか、と。

   ドラゴンから逃げる為に取った策。人が飛び降りたら到底無傷では済まされない高さから、固い地面への急降下。

   痛いのは嫌だ。誰だってそうだろう。しかしユウリは、自分が怪我を負う事よりも守ってくれるルーネスや、仲間が傷付くのを見たくないのだ。

   甘い考えかもしれない。世界を救う旅が簡単ではない事くらい、理解している。けれど自分の力で回避出来るのならば、そのための努力は惜しまない。

   我ながらこの状況下で、よくこのような策を思い付いたなと感じる。覚えたばかりの魔法、少しだけ練習してみたけれど、上手く出来る保証はもちろん無かった。

   それでも落ち着いて精神力を高められたのは。他でもない、ルーネスがユウリを横抱きにして支えてくれていたから。

   そこにあるのは絶対的な信頼感、そして安心感。もしも落下している時が一人で、何の支えもなかったら、精神は乱れて成功していなかったと思う。


「すごいな、ユウリのお陰でみんな無傷だ」


   爆風に煽られバランスを崩し、足から綺麗に着地、とはいかなかったイングズが、地面に座ったまま感嘆の声を洩らした。

   見上げたドラゴンの巣。考えてみると、切羽詰まった状況だったとはいえ相当な無茶をした気がする。あのまま地面に衝突していたらどこかしらの骨が折れていたかもしれない。それどころか、打ち所が悪かったらそのまま…


「…ユウリ、本当に助かった」

「どういたしまして、あれ?イングズ顔が青いよ、大丈夫!?」

「ああ、少し嫌な想像をしただけだ…」


   魔法で治癒出来るとは言っても、当然それまでの痛みは感じる。一体どれ程の痛みならば意識を保っていられるのだろうか。想像も出来ない。

   …いや、そんな想像はしなくても良い事だ。戦場に身を置く者として、嫌でも経験するかもしれない。その時まで気にしないようにしよう。


「それにしてもユウリ、いつの間にあんな応用が出来るようになったのよ?」

「ジンと戦っている時、サラ姫がアルクゥのブリザドを風で巻き上げた事があったでしょ?あれをお手本に思い付いたの」

「へえー、すごいわね。イングズも言ってるけど、皆が無事なのはユウリのお陰よ。本当にありがとうね」

「僕からも、ありがとうユウリ」


   面と向かってはっきりとお礼を言われると、なんだか照れてしまう。皆の役に立てた事が素直に嬉しい。

   どうやらドラゴンからは上手く逃げる事が出来たようだ。周囲の様子を見に行ったデッシュが下山道を見つけたらしく、抜け道を指差している。

   カナーン方面とは反対の、一行が進みたかった方向への下り道。人数が増えて少々賑やかになった光の戦士達は、小人と呼ばれる種族がどのくらいの大きさなのか話し合っていた。

   ふいに、デッシュがその輪から離れた。ルーネス、と呼ぶ声に振り向くと、こっちに来いと手招きしている。何事かあったのかと近くに寄ると、デッシュはにやりと笑いながら小声で質問を投げ掛けた。


「おまえとユウリって付き合ってんのか?」

「は?なんだよいきなり」

「いやー、さっき見てたぜ?飛び降りる時、普通にお姫様抱っこしてただろ?」

「ユウリは男のオレ達や軽い身のこなしのレフィアと違って受け身取れるかも分からないし、ああする以外ないだろ」

「まーそれもそうなんだけど、それだけじゃなくてなあ」


   ルーネスの返答も尤もなのだが、二人の間にはどうも違う雰囲気があるような気がする。デッシュは思い、質問を変えた。


「ルーネスはユウリが好きなのか?」

「え!?」

「お、その反応。俺の想像もあながち間違いじゃないな」

「な、何言って…」


   言い掛けて、止める。


「違うのか?」

「………いや、って、なんでデッシュにそんな事言わなきゃならないんだよ!」

「そんな事も何も、見てれば分かるぞ?視線っつーか…ユウリを見てる時のおまえの目、他の人に向ける時と違うからな」

「え、そうか…?」

「…もしかして自分では気付いてないってやつかい?」

「気付かないだろそんな事…」


   このデッシュという男、なかなかに洞察力が鋭いようだ。隠しているつもりはないとはいえ、出会ったばかりで、それらしい事をしていたわけでもないのにこの的確な質問。

   好きなのかと問われれば、答えはイエス一択だ。一言に好きといっても色々な種類がある。友達として、幼なじみとして、家族として、異性として。

   今回の件で言えば異性として、なのだが。それを踏まえても、答えは決まっているようなもので。

   けれど、まだ本人にも伝えていない想いを、見抜かれたとはいえデッシュに吐露するのも些か気が引ける。面白がっていらぬ世話を焼かれそうだ。


「言っておくけど、ユウリにバラすような野暮な事はしないぜ?」

「そんな事したら仲間から追い出すからな」


   ルーネスは小さく溜め息をついて、悟った。デッシュの確信めいた発言は、おそらく撤回される事は無いだろうと。


「少し直接的過ぎたな、悪い。二人が一緒に居る時に纏ってる雰囲気が、普通と違うように見えたんだよ。ただの幼なじみじゃないのは確かだろ?」

「…そんなに知りたいのか?」

「まあなー。ユウリは可愛いし良い子だし、ルーネスにその気が無いなら俺が…」

「おまえにはサリーナさんがいるだろ」

「冗談だよ、冗談。で?」

「うーん…」


   これから言おうとしている事は、単なる予想でしかない。予想、そして願望。なのだけれど、可能性は決して低くないだろう。

   お互いの性格は分かっているから、遊びであんな事───キスをしたりは、絶対にしない。


「…多分、お互い、好きだと…そう思ってる、と、おもう」

「それなら、」

「でも」


   デッシュの言おうとしている事は分かる。当人達が何よりもそう思っているはずだ。けれど。今は、まだ。


「オレ達は今、命懸けで旅をしているんだ。何が起こるか分からない。明日には存在しないかもしれない。そんな状況だからこそ、余計に悲しませる事になるかもしれない。だから決めてるんだ。全てが終わったら、気持ちを伝えようって」


   禁忌を犯している訳でもない。これはただの、互いを守るために生まれた、暗黙の了解。


「…そうか、先の事を考えてるんだな。軽く聞いて悪かった」

「そこは気にしなくて良いよ、言わなきゃ分からない事だし」

「そう言ってもらえると有り難いよ」


   申し訳無さそうに眉を下げたデッシュは、おそらくルーネスとユウリが決死の思いでこの約束を取り決めたのだと思ったのだろう。

   確かにこの考えさえなければと思う時もあるが、取り敢えずは言葉に出来ないだけで、行動は普段通り。いや、むしろ言葉の代わりに伝えようと、今まで以上の事をする関係になっている。

   それはそれで…悪い事ばかりでもないかもな、と。そう思っているルーネスは、デッシュに明るく微笑い掛けた。


「そろそろ合流するぞ」

「ああ、行くか。ところで幼なじみって一緒に寝たりするのかい?」

「おまえ本当に好きだな、そういう話」

「やっぱり気になるんだよー、俺記憶無いからさあ」

「それ関係あるのか?」


   苦笑を浮かべながらも更に聞いてくる姿勢はさすがといったところだ。この図々しい…もとい、興味が不思議と不快に感じないのは、デッシュの人柄がなせる技なのだろうか。

   まあでも、そのくらいなら言っても良いか。ルーネスは思い、質問に答えながら皆の元へ歩みを進めた。




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